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2025/06/20

困難と地域の壁を越えた分散開催の挑戦

-仙台の魅力を活かした分散型学会運営-

ポスター画像
学会名 第98回日本産業衛生学会
会 期 2025年5月14日(水)~17日(土)
会 場 仙台国際センター展示棟、川内萩ホール(東北大学)、
青葉山公園仙臺緑彩館、仙台市博物館
参加人数 5,000名

第98回日本産業衛生学会は、会場改修や開催地変更といった課題を抱える中、仙台の自然と文化資源、地域の連携力を活かした“分散開催”という形で開催。例年と変わらない参加人数を迎え、多様な工夫により新たな可能性を示した。

開催地変更と施設工事が重なった苦境

本来、2025年の開催地は大阪となる予定だったが、大阪・関西万博開催の関係により2年前に順番が変更され、仙台での開催が決定。
急遽確保した仙台国際センターも改修工事により展示棟が使用できず、残る会議棟だけでは必要な会場面積が不足していた。代替案として運営事務局のJTBコミュニケーションデザイン(JCD)とともに札幌コンベンションセンターの仮予約を行うなど検討が続いたが、最終的に開催地としての仙台にこだわる決断がなされた。
その決め手となったのは、仙台観光国際協会様からの提案だった。本来学会場としては利用が難しい青葉山公園仙臺緑彩館や仙台市博物館の貸与が実現したことで、必要な会場数と座席数を確保できる見通しが立ち、開催へと踏み切ることができた。

会場が複数に分かれていることから、当初は参加者の負担増を懸念する声もありました。その点について、企画運営委員長を務めた東北大学の黒澤 一教授は次のように語ります。
「会場間の移動距離が参加者の不満につながるのではないかと心配していました。しかし実際に歩いてみると、すべての会場が徒歩10分圏内に収まっていました。5月の仙台は晴天の日が多く、新緑の中を歩くのはむしろ心地よく、良い体験になると確信しました。」

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分散会場の魅力と地域資源の活用

最終的に選ばれた会場は、仙台国際センター展示棟に加え、川内萩ホール、青葉山公園仙臺緑彩館、仙台市博物館など、多様な施設。
これらの会場はいずれも仙台城跡やその周辺にあり、歴史と自然が融合した環境が魅力だ。「青葉山に広がる緑や、伊達政宗公ゆかりの風景といった地域資源は、参加者にとって特別な体験になったと思います。移動も健康維持の一部として楽しめるように設計しました」と黒澤氏は振り返る。

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今回利用させていただいた施設
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会場間の移動は新緑の中を徒歩で移動
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仙台国際センター展示棟
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川内萩ホール(東北大学)
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青葉山公園仙臺緑彩館
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仙台市博物館

参加者目線で設計された導線と体験

分散開催において最大の懸念は、会場間の移動に伴う不便さだった。これに対しては、会場間の各所に誘導スタッフを配置し、小回りのできるジャンボタクシーを循環させることで、移動の負担を軽減。参加者には仙台市地下鉄1日乗車券を配布し、公共交通の活用も後押しした。
さらに、ネームカードを事前にダウンロード・印刷する仕組みを導入することで、受付に立ち寄る必要をなくし、参加者は自身の目的地に直行できるようにした。

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会場間の主要地点に案内スタッフを配置
分帰路にはスタッフが声掛けとプラカードで誘導。

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ジャンボタクシーによる巡回運行を導入
シャトルバスよりも小回りが利き、乗り降りもスムーズな運行が実現しました。

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仙台市地下鉄1日乗車券を配布
企業展示を回ることで仙台市営地下鉄一日乗車券をプレゼント。
[提供(公財)仙台観光国際協会]

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ネームカードは各自で出力で持参
ネームカードは事前にパソコンから各自で出力し、受付に立ち寄らず、直接会場へ。

さらに、会場ごとに休憩スペースを柔軟に設けた。会場では場所が十分に確保できない中で、青葉山公園仙臺緑彩館のバーベキューコーナーを休憩コーナーに活用。仙台国際センターエントランスにはパラソルを設置し、屋外の開放的な空間も工夫して活かした。
また、飲食制限のある仙台市博物館では、ランチョンセミナー終了後にお弁当をテイクアウト方式で配布し、専用会場で食事を取る方式に切り替えるなど、細部に至るまで参加者視点の運営がなされた。

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テイクアウトしたお弁当は専用の
昼食会場でお召し上がりいただく
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仙台国際センターのエントランス前に
パラソルと椅子を設置
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青葉山公園仙臺緑彩館の
バーベキューコーナーを利用した休憩コーナー

地域と融合した学会運営のかたち

今回の開催では、仙台という地域を学会のコンテンツの一部として活用する取り組みも実施された。実行委員の提案から生まれたのが、森林浴体験ツアーと仙台街中ランニングである。
森林浴ツアーは、伊達政宗の残した青葉山の景観を活かした「杜の都・仙台」の自然を五感で堪能するプログラム。一方、街中ランニングでは、仙台市内の観光地を巡りながら他の参加者と交流することができた。
また、西馬音内盆踊りの紹介や地元産品の展示など、地域文化との融合も積極的に行われ、参加者の多くが仙台ならではの魅力を学会を通じて体験することとなった。

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朝に実施された「仙台街中ランニング」
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五感で癒す自然が体験できる
「森林浴体験ツアー」

「不便さ」が開いた新しい可能性

「都市部の開催と同等の参加者が集まってくださったことは、運営にとって大きな成果でした」と黒澤氏は語る。従来の“一極集中”ではない運営が、参加者にとっても好意的に受け止められたことは、今後の学会開催形式への示唆となる。
「やむを得ず選んだ分散開催ではありましたが、地域との連携によってそれを強みに変えることができた。これからの学会は、地域とのつながり、移動の自由度、体験の質といった視点も重要になるのではないでしょうか」。

JCDにとっても、今回の分散開催は大きな挑戦でした。地域資源を活用し、関係者と共に乗り越えたこの経験は、今後の学会運営における貴重な財産となりました。この学びを次の現場へとつなげ、これからも、より質の高い学会運営を追求していきます。

協力

  • 「第98回日本産業衛生学会」
    企画運営委員長 黒澤 一 様
    (東北大学環境・安全推進センター 教授・統括産業医)
  • 仙台観光国際協会 様
  • (公財)仙台観光国際協会 様

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