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JTBコミュニケーションデザインの様々な取り組みをご紹介します。

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With/Afterコロナでより求められる地域ブランディング

変わりゆく世の中で、選ばれ続ける観光地であるために。

コロナ禍で苦境に立たされている日本全国の観光地。Withコロナの渦中である現在、そして来るべきAfterコロナでのコミュニケーション。はたして私たちはどう取り組んでいくべきなのでしょうか。クリエイティブ・ディレクター&コピーライターの初海が、継続して携わっている北海道斜里町・知床ブランディングについて、現状とこれからを語りました。

知床の魅力をブランドメッセージに規定
シンボルキャラクターはSNS拡散・グッズにも波及

これまで企業のクリエイティブディレクションやコピーライティングに携わってきましたが、知床の地域ブランディングに携わるようになったのは2015年。知床が世界遺産に登録されて10年目で、団体旅行が減ってきた頃です。知床という地名は、年配の方には知られていましたが、若い方にはあまり知られていなかったんですね。そこで、新しくて多様な知床のイメージを発信するポスターを制作。2016年頃からは役場の観光課の方々とも関わるようになり、同じクリエイティブチームでブランディングを担当することに。知床の価値を言葉で規定し、洗練されたロゴやビジュアルを作り、マス媒体だけではなくSNSで拡散していくというのが、知床ブランディングの第一歩でした。

日本各地に世界遺産が多くある中、同じ「世界遺産」として売り出していくだけでは、人を惹きつけることはできません。なので、世界遺産となった理由を言語化して、コピーにすることを提案しました。知床は、流氷を起点とした海・川・森の命のサイクルが世界的に見ても希少なんです。そこで、「SHIRETOKO! SUSTAINABLE 海と、森と、人。」というブランドメッセージを作りました。

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SHIRETOKO! SUSTAINABLE  海と、森と、人。

https://www.shiretoko-sustainable.com/

それに加えて、"知床トコさん"というヒグマのシンボルキャラクターも登場させました。ポスターや地元の看板、地域グッズとしても使用し、観光客だけではなく、地域住民もターゲットにして、地域からも盛り上げていったんです。いわゆる「ゆるキャラ」ではなく、大人も楽しめるキャラクターデザインにしたおかげで、たくさんの人に受け入れてもらいました。 知床トコさんグッズは、缶バッチやTシャツ、トートバッグなどもあり、お土産としてではなく自分用に買っていく人も多くいました。SNSでは、感度の高い台湾のミレニアル層の反応も特徴的でした。

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知床トコさんグッズ

これまで築き上げたブランディングと信頼関係で
この難局をスピーディに対応

新型コロナウィルスの影響で、知床の観光客も9割ほど減ってしまい、ホテルや観光施設も休業を余儀なくされるなど、ピリピリムードに...。ただ今後は、旅行の捉え方が変わり、近場の魅力の再発見や、強い目的意識を持って行くという方向になると考えています。そうなると、私たちが今まで知床でやってきたブランディングが、より反応しやすい状況になってくると思うんです。逆にブランディングしていなければ、この局面を乗り切ることは難しいのではと、現地の方々とは話をしています。

知床トコさんによるコロナ対策メッセージとSNSでの発信"
知床トコさんによるコロナ対策メッセージとSNSでの発信


5月は、SNSで知床の美しい自然の様子をキャラクターの知床トコさんを使って、発信しました。まだ緊急事態宣言の最中なため、「すぐに来てください」とは言えませんが、知床の自然に思いをはせてほしいという気持ちを「STAY HOME STAY サステイナブル」というメッセージに込めました。6月に入り、少しずつ観光客が戻り始めてきたら、次は知床トコさんを使ってソーシャルディスタンスを呼びかけています。観光地なので旅行気分を壊さないように意識しつつも、仕組みやサインなどはしっかり整備する必要があります。ある程度のスピード感をもってやらないと意味がありませんので、制作物はPDFなどですぐに出力し、配布や掲示できるように対応。こうしたことが、地元の方や観光客の安心にも繋がっていけばよいなと思っています。

知床トコさんによるコロナ対策メッセージビジュアル
知床トコさんによるコロナ対策メッセージビジュアル


実はこのような取り組みは、以前にも行ったことがあるんです。畑に入って写真を撮る観光客が増えたため、知床トコさんを使って「畑に入らないでね」というチラシと看板を作ったことがありました。このような前段階もあったので、今回も迅速に対応できました。普段から知床の担当者との打ち合わせはリモートで行われることが多かったので、やりとりに支障はありませんでしたね。

内側から盛り上げる
インナーブランディングで価値観を共有

地域ブランディングは、基本的にその土地ならではの価値を高める必要があります。ゼロから作るのではなく、あるものをどう魅力的に見せていくのかを考え、磨き上げていくことが私たちの仕事なんだと思います。 以前、地元の有志から、空港から世界遺産へ続く一本の直線道路を「天に続く道」として売り出したいという話がありました。それを地元の役場が後押しして駐車場を整備したり、フォトスポットの看板を知床トコさんで作ったりした結果、徐々に認知度も上がって、知られるようになったんです。地元の人たちにしたら一見なんでもないところかもしれませんが、どうしたら旅行者にとって魅力的なスポットになるのかを考えて、皆さんで磨いていった一例ですね。 また、流氷ウォークという、流氷の上をドライスーツを着て、ガイドと一緒に歩くという冬のアクティビティがあります。15年ほど前に誕生したアクティビティですが、最近はフォトジェニックなこともあって人気です。それに派生して「知床流氷フェス」という冬のイベントが生まれていて、私たちはそのコンテンツ開発の一部を担当しています。

そのほか、アウトドアブランド「THE NORTH FACE」とのコラボレーションもしています。「正しい自然との関わり方」「自然との共存・調和」といった考え方において共感しあうことができたことが始まりです。2018年の秋に開催されたイベントに協賛していただいたご縁で、知床トコさんとのコラボTシャツを作って販売。その後、2019 年には「THE NORTH FACE」の複合店が知床国立公園内にオープンしました。約250平方メートルの店舗には、知床の自然を楽しむためのアクティビティウエアやグッズのほか、知床トコさんとコラボした商品なども揃っていて、知床自然センターと連動したイベントなども開催されています。

知床のブランディングは観光だけではなく農業や漁業にも発展し、横展開の広がりを見せています。実は斜里町は16年連続で鮭の水揚げ量日本一の町で、それを発信していきたいという要望が役場からあがったのですが、それまでそうした事実を地元の漁師たちは対外的にPRしようという風には思っていなかったようです。そこで、まずはインナーブランディングから取り組み、「SHIRETOKO FISHERMAN'S PRIDE」という漁師の誇りを応援するようなコピーとロゴを作りました。そして、「HELLY HANSEN」(ノルウェーの港町で生まれたアウトドアブランド)が作ってくれたウェアを漁師たちが着ることで、彼らのモチベーションアップを図りました。

SHIRETOKO FISHERMAN'S PRIDE
「SHIRETOKO FISHERMAN'S PRIDE」

https://www.goldwin.co.jp/hellyhansen/shiretoko/

SHIRETOKO FISHERMAN'S PRIDE

そうしたことで、知床の町で「HELLY HANSEN」の知名度がアップし、漁師さんを応援する「HELLY HANSEN」として、お互いのブランドの価値を高めることができました。2年目は知床の漁がよく見える場所を観光スポット化したり、3年目の今年は鮭を実際に食べられる場所を作ったりするなど、継続的な取り組みをしています。

ありがたいことに知床トコさんをモチーフにしたグッズの売れ行きはよく、利益も出ているようです。ただ、地域ブランディングは儲かればいいという話ではありません。今後は、サステイナブルと言うからにはサステイナブルな商品を作ったり、グッズの売り上げを寄付したりと地元に還元していき、ブランドの根幹を加速化させていくつもりです。

徹底するのは
ブランド作りとその親和性

今のトレンドリーダーは、団塊ジュニアミレニアルと呼ばれていて、彼らのコミュニケーションはフラット。そして、ビジュアルに関してとてもシビアです。どんなにいいものを作っていても、ウェブサイトで引き込むことができなければ、相手にされないということもあります。なので、ブランドをコントロールしていくことが重要なのです。

知床のSNSでは、当社がクリエイティブをコントロールしながら、現地チームが運営しています。この写真で、この書体を使用するなどとクリエイティブチームがハンドリングをしているんです。サイトを作ろうと思ったら、制作会社に頼めばすぐにできてしまいますが、根っこの部分のコンセプトの共有から含めて、クリエイティブのコントロールまでできることが当社の強みです。まさに、地域のブランディング戦略室のクリエイティブディレクションをしているというイメージですね。ですから書体一つとっても、納得がいかなければブランドを守るために徹底的にディスカッションしますし、そこは妥協してはいけないとこだわりをもってやっています。

また、当社のチームにはマーケティング専門担当がいて、インサイト解析も行っています。その地域に親和性の高いターゲットを想定して、どういう心のボタンを押せば反応するのかを、ビッグデータから解析しているんです。当社のようにコンサルやディレクションをし、アウトプットまで手がけている会社でなければ、解析までを統括して行うというのは難しいでしょう。

一昔前は、できるだけ多くの人と接点をもって、そのうちの何%が来てくれればいいという発想でした。ですが、知床は行くのに時間もお金もかかる場所です。なので、知床に親和性を感じる人々と繋がりをもち、その人たちに何回も訪れてもらうというコミュニケーションにしていかなければ、次へ繋げてくことはできません。地元の人は地元愛がとても強いので、「こんなすごい場所があるよ、こんなおいしい食べ物があるよ」とアピールするのですが、それだけですとターゲットにはハマらないこともあると正直に伝えるのが、外側からの視点をもって考える私たちの役目です。特にミレニアル層には、共感・等身大という目線にしないと、コミュニケーションが取りにくいのではと思っています。私たちはそれをチューニングし、最適化していく必要があるんです。訪れる人の気持ちになって、「それなら行ってみよう、食べてみよう」というものを研ぎすまして、腑に落ちる理由をアピールしていかないと選ばれる観光地にはならないのではないかと思っています。

年々世界は変わってきていますし、接触するメディアも変わってきています。それに合わせたコミュニケーションを、私たちは設計していかなければなりません。ロゴやポスターを制作して終わりではなく、全体を俯瞰し「目指すべき姿」を共有しながらそれを言語化し、デザインに落とし込み、一気通貫で見せる。私はプレゼンなどの際も、「目指すべき姿」が互いにイメージできるよう心がけて話をしています。これは、プランニングとクリエイティブの両方に携わってきた私の強みだと自負しています。

今後、私たちは新型コロナウィルスと共存していかなければならず、観光地でも感染リスクを考慮しながら楽しんでもらうことが求められています。コミュニケーションデザインのプロフェッショナルとして、そうした世の中の変化に柔軟に対応しつつ、最適なクリエイティブを提案していくのが私たちの役割だと思っています。

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