- まちづくり・地域活性課題
- Report
2021.01.26
記憶に残る地域PRのカタチ"おうちで食の旅体験"
家事代行マッチングプラットフォーム・タスカジ社との社会実証実験
家事代行マッチングプラットフォーム・タスカジと共創し、
地域の食文化を人から人へ伝える取り組みを企画
JTBコミュニケーションデザイン(以下JCD)では、株式会社タスカジと共に、全国各地の地域食材と料理代行を組み合わせたサービス"おうちで食の旅体験"の社会実証実験を行っています。全く違う業態のタスカジ社と共創することで新たな価値を生み出し、地域活性や社会課題解決へと繋げていくその試みについて、JCD プロモーション事業部 西日本営業局の原岡・富村・山﨑と、株式会社タスカジ 代表取締役の和田氏が語ります。
◆参考 2020/11/25リリース
「おうちで食の旅体験」社会実証実験開始
https://www.jtbcom.co.jp/news/2020/1101.html
地域特産の食品ロス解決のため
タスカジ社と取り組む実証実験
和田氏
株式会社タスカジは2014年創業で、多彩な家事スキルを活かして働くハウスキーパー(タスカジさん)と、家事をお願いしたい人とをつなぐシェアリングエコノミーの家事代行マッチングサービスを運営している会社です。起業のきっかけは、私が会社員として働いていたときに子供が生まれ、仕事と家事の両立に非常に悩み、なかなかキャリア形成ができなかったことからです。私の周りにも、同じような課題を感じている人たちが多くいました。
家事のサポートを受けるというあたらしい家事文化をつくることを通して、時間や思い込みなど様々な制約からの解放を実現し、誰もが自由な選択で、自分らしく生きることができる世界をつくることが社会課題の解決につながるとも思いました。シェアリングエコノミー型のビジネスモデルを採用することで1時間1,500円から業界最安値水準の利用料金とタスカジさんの高時給を実現しています。また、多様な個性やスキルを有するタスカジさんが登録していて、依頼者はタスカジさんと直接やり取りできるので、細かい要望をスムーズに説明し、ご自身やご家庭に合わせてカスタマイズできます。現在約8万人のユーザーと約2500人のタスカジさんが登録しています。
富村
私や原岡、山﨑は、大阪にある西日本営業局で、一般企業や鉄道会社、商業施設、地方自治体などのクライアントに向けて様々なプロモーションのご提案をしています。タスカジ社さんとのそもそもの出会いは2年ほど前。先ほど和田社長がおっしゃったことと重複するのですが、弊社内でも1億総活躍社会の中で、社として何か一石を投じることは出来ないか?ということで「女性のための研究所」を課内で立ち上げました。共働き世帯増加という課題を解決するビジネススキームを作り上げることはできないかということで、山﨑がタスカジ社へコンタクトをとり、そのときにディスカッションをさせていただいたのがきっかけでした。和田社長、突然のお電話、失礼しました(笑)
和田氏
そのときには具体的な取り組みにはならなかったのですが、一方で2020年7月にタスカジ社では「タスカジ研究所」という取り組みを新たに発足したんです。そして今、弊社のプラットフォームを使って企業さまと様々な実証実験や商品・サービス開発を共創する場として事業展開しています。現在のコロナ禍では、なかなか通常時のように旅行や外食ができないため、各地域の観光資源として確保していた食材が消費されずに破棄されてしまうなど、非常にもったいないことになっているという点に着目し、その社会課題を持続可能な形で、解決する方法はなにかないのかと考えていました。
富村
その頃、ちょうど私たちも和田社長と同じようなことを考えていたんですよね。そこで、地域活性支援において今まで蓄積したJCDの知見を活用し、「タスカジ研究所」と共にこの社会課題の解決に取り組み、食を通じた新しい地域の魅力発信の方法を考えたいとタスカジ社にご相談したのが、今回この企画立ち上げの経緯になります。
タスカジ社とJCDのノウハウを活かし、
自治体との連携をスムーズに実現
原岡
今回、JCDとタスカジ社で行った"おうちで食の旅体験"は、タスカジさんが依頼者のお宅で地域の食材を料理しながら、観光情報についてもご紹介し、家にいながら「旅体験」を味わっていただくサービスです。今回の社会実証実験では、三重県にご協力いただき、食材はブランド養殖マダイ「伊勢まだい」としました。
富村
"おうちで食の旅体験"の行政側へのルートは弊社がご紹介し、円滑に事業推進できるようコーディネートしています。また、JTBグループであるJCDは、観光や旅行の視点を食材にどう絡ませていくかということを考えて提案しています。
和田氏
JCDの方々は各地が抱える地域課題に関しての情報を多く持っていますので、スピーディな情報収集、ネットワークを活用してスムーズに自治体と連携することができたと思います。観光資源となっていた特産品が地域で余ってしまい破棄されているという課題については、ECサイト等で通常より価格を下げて販売し、とにかく量をさばくことも一手ではあると思います。ただ、消費されれば何でもいいというわけではなくて、産業が立ちゆくかたちで本来の価値を保ち、また最終的にそれ以上の付加価値に高めて依頼者の元へ届けたい。今回の実証実験ではそういった点にこだわりました。
原岡
ありがとうございます。そうですね。実は同じ課内に農水産品の輸出販路拡大の案件を担当している社員がいて、三重の伊勢茶を海外に向けて輸出する事業を行っています。私も同行し、三重県の農水産担当の方と話しているときに、伊勢まだいが余って困っていることを知りました。高級魚である伊勢まだいは、ホテルや旅館などへ多く提供されていましたが、コロナ禍で旅行者が激減。縁起物の鯛ということもあり、結婚式や宴会などでも食べられていた需要も落ち込んでいるという中で、消費されず大量に余ってしまっているという状況も聞いていました。ちなみに、三重県は御食国(みけつくに)と古くから呼ばれている志摩地域があるなど食材がとても豊かなんです。和田社長のおっしゃるように、これらが叩き売りになってしまうのは、私としても大変残念なこと。ぜひJCDとして力になれればという思いがありました。
富村
他にも食材の候補はいろいろありましたが、鯛は「めで鯛」という意味もありますし、丸ごと一尾が家に送られてきたときのインパクトは大きい。家庭の中で、「おっ!」という驚きを生みたいという思いもあり、いくつかの候補の中から今回は三重県の伊勢まだいをピックアップすることになりました。
家にいながら本場の食文化を味わってもらうために
地元の方から秘伝のレシピや観光情報を伝授
和田氏
食材だけでなく、三重県の観光情報も伝えて知ってもらい、三重県ごと好きになってもらいたい、そういったユーザー体験もお届けしたかったので、タスカジさんには事前に研修を実施し、三重県の観光情報と鳥羽国際ホテル料理長が考案したレシピを修得し、伊勢まだいナビゲーターとして依頼者に届けてもらっています。お料理はもちろん、家にいながら三重県へ旅したような体感ができるように工夫しました。
研修で実施したメニューの中では、鯛の手こね寿司への反響が大きかったですね。タレの味付けが少し甘めで、三重県独特の味わいなんだそうです。
原岡
「伊勢うどんの甘辛い味を思い出した!」など、以前に旅したときの経験を思い出したという声もありましたね。手こね寿司自体、本来は地元のカツオを使ったものだったようなのですが、三重県のご担当者と相談し、鯛の手こね寿司を開発された鳥羽国際ホテルの料理長のオリジナルのレシピを教えていただきました。
記憶に残る地域PRのカタチ
和田氏
"おうちで食の旅体験"は、鯛まるごと1尾といった非日常のご馳走を自分の家で体験したり、その地域ならではのレシピによる調理をすぐそばで学ぶことができたりしたことなどが新鮮だったようです。小さいお子さんのいるご家庭の利用も多く、丸ごと1尾の鯛を見て大喜び。さばいている様子や、料理している様子を子供に見せたかったという声もありました。今回の企画は、1尾1セット、3時間。だいたい1尾で4人家族4~5品の鯛料理を提供させていただきました。
山﨑
今回私は、ユーザーとしても "おうちで食の旅体験"を利用したのですが、タスカジさんのスキルがとても高いことにとても驚きました。実際の調理だけではなく、子供に刺身の切り方を教えてもらったり、錦糸卵の作り方をレクチャーしてもらったり、プラスアルファの経験も非常に楽しかったです。体験することで、家族の思い出もできました。当然、伊勢まだいも美味で、まだい自体もまた自分で買って食べてみたいと感じました!
確かに、食材を頼むだけならECサイト等でいいのかもしれませんが、地域ならではのレシピを間近に見たり味わったりできるのはこの"食の旅体験"ならでは。三重県の食が味わえるということもあり、事前に三重県のお酒を買いに行くなど、さらに楽しい時間を過ごすことができました。そしてこれまた、たまたまなんですが両親が少し前に三重に旅行に行っており、そのお土産でお醤油をもらったのでこれも使うことができ、さらに三重県をまるごと食すことができたと思います。また、1尾を買うことで潮汁が作れるので、骨の髄までおいしさを味わえました。とにかく、1尾丸々きちんと食べることを紹介できたのは、子供たちの食育にもつながったのではないかなと思っています。
原岡
山﨑家では、まさに付加価値のついた体験ができたみたいですね。このような体験を生むことができるという点で、"おうちで食の旅体験"は、自治体にとってもメリットが大きいと思っています。今まで物産展など地域観光や食材をPRする場はいくつもありましたが、チラシを配布したり試食をしてもらったりするだけでは、どうしてもその場限りになってしまうことが多いのではと感じることもありました。"おうちで食の旅体験"は、1枠でも3時間はタスカジさんと依頼者が接しますので、地域の食材を味わい、地域の魅力を知り、体験することで記憶に残る。その記憶が旅への喚起となり、次の行動を生む。そういったサイクルを作り出していきたいと考えていますし、それができるのがこの企画の大きな特徴だと私は思っています。
和田氏
本当におっしゃる通りだと思います。この企画を通して、地域の食文化や観光資源の魅力を知ってもらい、今度は実際にその場所に訪れて味わって、感動してもらいたいですよね。
原岡
そうですね。観光地域や食材の情報収集能力はJCDならではの強みと考えていますが、観光庁をはじめ、自治体の方々とのやり取りの中で課題をヒアリングしていきたいと思います。また、観光と食は切っても切れない関係ですので、農林水産などの分野にももっともっとアンテナをはり、JTBグループの領域を広げていきたいという気持ちです。
富村
現在、私たちとしては、次回の実施に向けて各自治体と話を進めていますが、課題もあります。今回の実証実験では販売数を50セットに設定しましたが、ビジネスとして成り立たせるためには、500や1000セットを販売しなければいけないですし、そのためにしなければいけないことはまだまだあると思っています。
和田氏
そうですね。展開手法については、コロナ禍においてはオンラインを活用した弊社の「タスカジブートキャンプ」というサービスを応用したらどうか、とも思っています。「タスカジブートキャンプ」は、訪問せずにオンラインで参加者のお宅と繋がり、タスカジさんが隊長となって参加者と一緒に料理や掃除をしていく、新感覚の体験型のオンライン家事プログラムです。コロナ禍においてイエナカ(家の中)での生活を充実させたいと思っている方が増えていますので、オンラインで繋いで一緒に料理をすることで、より豊かな生活をご提案できたら。これもまた、もう1つの新たな実証実験になるのではと考えています。オンラインであれば、地元の方とも繋ぐことができますし、「タスカジブートキャンプ」の中で、地域の情報をダイレクトに参加者にお届けできることも大きな魅力になりそうです。
原岡
オンラインの体験であったとしても、地域の方々の想いに触れたり同じ時間を共有したりするだけで親近感を持つことができますよね。そうなると、旅行ができる状況になったときには行きたい場所の候補として、その場所が挙がると思うんです。地域の魅力を伝える手法はいろいろあると思いますが、今回の"おうちで食の旅体験"のような取り組み、そして、社会課題の解決にも繋げられるような取り組みができないか考えていきたいですね。
【ご協力いただいた 三重県 農林水産部 フードイノベーション課 課長 福島さまより】
「魚を丸ごと送ってもいいものか?」など、都市部のご家庭のニーズがわからない中、JCD様、タスカジ様と連携させていただき、喜んでいただける商品開発、メニュー考案をすることができました。お届けした鯛の大きさに驚いたり、三重のことをお話いただきながら調理し、ご家族で食べていただく様子を想像して、担当する私たちもとてもワクワクする取組みでした。
オンラインが中心となりましたが、関係者が顔の見える関係を作り、思いを共有し、その繋がりの中で、丁寧にお届けできたことで、食べることを通じて旅を感じていただけたと思います。この取組みに地方自治体として最初に関わらせていただき感謝しています。
◆「おうちで食の旅体験」サイト
https://tabitaiken.taskaji.jp/
(伊勢まだい企画に関しては限定販売のため、販売終了となる場合がございます)
◆株式会社タスカジ 会社概要
・設立 :2013年
・代表者:代表取締役 和田 幸子
・所在地:東京都港区芝2-26-1 iSmartビル301
・事業内容 :家事代行マッチングプラットフォーム「タスカジ」の運営
・HP :https://taskaji.jp/