- まちづくり・地域活性課題
- Report
2023.05.18
観光案内所スタッフが語るデジタル時代に求められる観光案内所のあるべき姿
リアルな観光案内所だからこそできるその役割とは
日本への入国制限の緩和や円安の進行を背景に高まる訪日インバウンド熱。ノープランで来日する旅行者がいる一方で、入念に下調べをしてから来日する旅行者が増加しています。インターネット環境さえあれば、簡単に世界中の情報が手に入る今、リアルな存在である観光案内所に求められている役割とは一体何なのか。JCDが委託運営を行っている観光案内所スタッフの河野と青木に、デジタル時代に求められる観光案内所の役割や、コンシェルジュとしてのあり方について語ってもらいました。
旅を楽しむサポートをしながら
地域のインフラとしての機能も
河野
アフターコロナでの外国人旅行者の動向は、少人数でのプライベートツアーや地元の人が案内するローカルツアーへと変化しつつあるように感じます。これにより小規模宿泊施設を利用するケースが増えたことで、これまで滞在先のホテルや旅館のフロントの方々が対応していた遺失物などのアクシデントが起きた時の相談先が無く、困り果て、観光案内所を頼られる方が散見されるようになりました。
外国人旅行者が日本の細かいルールを知ることは難しいですし、観光案内所では可能な範囲での対応となりますが、臨機応変に対応すること、さらにはそれらの情報を観光案内所のスタッフ間でもシェアするなど、常に新しい情報の共有が必要だと感じています。
青木
観光案内所は利便性が高い立地にあるケースが多く、人気のある観光地の近くでは比較的設備や機能が充実していたり、営業が年中無休であったりと、旅行者だけにかかわらずみんなが利用しやすくインフラ的な要素も担っています。
私が所属する観光案内所では東京都産業労働局が推進する「アクセシブル・ツーリズム」という障害者や高齢者など移動が難しい方々にも旅を楽しんでもらう取り組みに力を入れていて、自由にご利用いただける車椅子やベビーカーの貸し出しも行っています。外国人旅行者だけでなく、多様化する旅行者に合わせ、観光案内所としても様々なニーズに対応し、誰もが安心して旅を楽しめるサポートを提供したいと考えています。
デジタル時代の観光案内所に
求められるのは「付加価値の提供」
河野
今や情報がデジタルで容易に入手できる時代となり、観光案内所とデジタルが比較されることがあります。ですが、それはどちらか一つを選択する事に意味はなく、むしろそれぞれの強みを活かしたハイブリッドな形となって共存するのではないでしょうか。私自身も以前は、観光案内所の役割がデジタルに置き換わっていく可能性も視野に入れていましたが、観光案内所を訪れる旅行者数は減るどころか、増加傾向にあります。
青木
そうですね。今の観光案内所の役割として、旅マエにデジタルを活用して調べた内容や価値観など、訪れたお客様の本当のニーズを読み取って、最適なご提案をすることが求められていると思います。ネット上で調べてわかる情報以上の満足度の高い付加価値を提供できるのは、リアルな観光案内所だからこそ。交通アクセス一つにしても、その会話から相手の好みや価値観を読み取り、ご提案をすることでその方の旅がより充実したものになっていくはずです。
昨今、デジタルに慣れ親しんでいる若い世代でも観光案内所を訪ねて来られるようになったのは、そのようなプラスαの提案を求めているからなのではと感じています。例えば似たようなスポットがあっても、両者の微妙な違いの情報提供を交えつつ、お客様の価値観に合わせたご提案をできるのが観光案内所のコンシェルジュです。観光案内所に訪れる方々は、それを頼りにしているのではないでしょうか。
河野
デジタル時代になったからこそ、リアルの良さが際立ってきている気がしています。ご自分で調べてきた内容を頼りに観光案内所を訪れ、コンシェルジュが旅行者の満足度を高める提案や付加価値を提供することで、新しいヒト・モノ・コトに出会うことができ、デジタルだけでは得られなかった旅の思い出をつくることができると思うんです。私たちはそれを偶発の出会いである「セレンディピティ」と言っていますが、その「セレンディピティ」に出会える観光案内所こそ、目指している姿なんですね。
これからのコンシェルジュは
よりプロフェッショナルでなければ務まらない
青木
観光案内所に訪れるお客様のほとんどは、その地域に初めてやってくる方が多いため、何かしらの不安を抱えていらっしゃいます。訊ねられたことに対してのみ答えるのでなく、接客したお客様を不安から笑顔に変えられるよう親しみやすく温かみのあるおもてなしで、お客様の不安を取り除き、ワクワクした気持ちを引き出すのもコンシェルジュの役割だと思います。
日本には何度も訪れている方であっても、対話の中で潜在的なニーズを引き出した結果、隠れ家的なお店よりもチェーン店の方が適していることがあります。自分の感覚だけでお伝えするのではなく、お客様の潜在的な要望や願望を引き出した上で、状況に合わせたご提案をすることがコンシェルジュに求められるスキルなのではと、日々ご案内を行う中で実感しています。
河野
青木さんが言うように、観光案内所のコンシェルジュという仕事は、「勉強してきた語学が使いたい」「お客様の笑顔が見たい」という気持ちだけではなかなか務めることが難しいと思います。観光案内所に訪れるお客様の方々は、数ある訪問先の中でこの地を選び、限られた時間の中で足を運んでいただいている貴重な存在なのだということを忘れないようにと、新任スタッフの時からプロフェッショナルであることを意識づけ、何を達成すべきなのか目標を明確化しつつ、その大切さを教えています。
また、SNSなどの情報から旅のプランニングを求められるようになってきますと、自分たちの観光の知識レベルも常日頃からのアップデートが必要となり、言語スキルやホスピタリティはもちろんのこと、ディープなスポットについても感度高く情報収集していくことが必要です。
デジタル化が進んでいるのは旅行者ばかりではありません。私たちが委託運営を行っている観光案内所でもDX化が進んでいます。多くの旅行者からのVOCなど様々な情報をデータベース化し、分析することで、旅行者のニーズや嗜好を把握し、デジタルを活用したよりよいサービスの提供を目指しています。そして何よりも重要なのがコンシェルジュのモチベーションです。視座を上げていく研修やOJTによる教育により目標を設定し、ワークライフバランスの実現、お客様に対してだけでなくコンシェルジュ同士のコミュニケーションを大切にしながら、日々の業務をこなしています。
JCDでは、新しい観光スタイルとサービスの提供、そして訪れたお客様のワクワクした気持ちを引き出すことを目指し、今後も様々な取り組みにチャレンジし、頼れる存在であり続けたいと考えています。