- 人と組織の活性化
- Report
2020.12.18
成長し続ける企業の鍵
ー社員のモチベーションと業績の関係性ー
HRカンファレンス2020秋 特別講演オンラインセミナーレポート
新型コロナの影響で多くの企業が今、業績不振や経営の危機に直面しています。2020年11月20日にライブ配信された日本の人事部「HRカンファレンス2020-秋-」では、当社のHRコンサルティング局 チーフコンサルタントの村上美奈子が、「成長し続ける企業の鍵ー社員のモチベーションと業績の関係性ー」と題した講演を行いました。講演では、社員のやる気やエンゲージメントの低下を招く短期的な経費削減や抑制施策をせざるを得ない中、人材への投資による社員のモチベーションアップや、業績向上に繋げていくための強い組織を作る方法を模索しました。社員のモチベーションと業績の関係性に関する調査結果などもふまえて解説した内容をレポートします。
―Speaker――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
村上美奈子
JTBコミュニケーションデザイン
HRコンサルティング局 チーフコンサルタント
大学卒業後、株式会社ベネッセグループに入社。その後、株式会社野村総合研究所グループ、大手監査法人グループの人材育成コンサルティング会社を経て2018年より現職。製造、製薬、金融、商社、ITなど様々な業界の人材開発・組織開発に取り組む。
村上のプロフィールページ:https://hr.jtbcom.co.jp/consultant/minako-murakami/
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企業を取り巻く、過去に例のない環境変化
報道されている通り、2020年4−6月期のGDPは戦後最悪までに落ち込みました。一方で7-9月期の成長率は前期反動により5%も上昇するなど非常にアップダウンの激しい状況になっています。日経平均株価は29年ぶりに2万6千円台を回復(2020年11月)し、一見すると景気が良いと思われがちです。にもかかわらず大卒就職内定率は69.8%(2020年10月)と5年ぶりに70%台を下回りました。こうした数字を俯瞰してみても、経済環境は異常な事態にあると言えるでしょう。経済指標が新型コロナ禍の影響をわかりやすく反映しています。
今回の新型コロナ禍と過去の経済危機に陥った状況を比較した時に、一番の相違点となるのは、やはり"先の見通しが立たない"ことではないでしょうか。新型コロナの第2波、第3波が到来するなど、収束の兆しは未だ見えないまま続いています。
こうした状況の中で、新型コロナ禍は、私たちの「モチベーション」にも多大な影響を与えています。JCDでは、2020年8月に「ウィズコロナ時代のモチベーション調査」と題して働く人々のモチベーションについて調査を行いました。その結果、今回のコロナ禍では、以前の東日本大震災時の同様の調査と比較すると、働く人のモチベーションが16.6%低く、また「今後頑張ろう」という気持ちの変化についても6.8%低い結果となり、全体的な傾向として震災時と比べてもモチベーションが低い傾向にあることが分かりました。(下図)
いま必要なのは、長期的な視点と短期的な視点
コロナウイルスの感染状況についてはいまだ予断を許しませんし、いつ終息が訪れるのか誰にも予測ができない状況にあります。コロナ禍の収束見通しが立たない現状においては、企業は「生き残ること」に専心すべきです。そのためには、長期的な視点と短期的な視点の両方をもって、様々な施策に取り組む必要があります。
過去の経済危機に対する企業の取り組みとしては、経費削減や新卒採用の抑制、成果主義の導入、人員削減(リストラ)といった短期的な施策ばかりが重視されたものです。これでは働く人々ばかりに負荷が発生してしまいます。社員のなかには"私たちは単なるコスト"といった疑念を抱く人も発生することになり、必然的に社員モチベーションは低下してしまいます。これでは景気回復期に移行した時、優秀な社員が離職することになりかねず、その度に人手不足に陥ります。すると、都度中途採用や新卒採用で補充していかなければならず、生産性や売上の低下、社員の疲弊といった組織力を低下させる負のループに陥ってしまうのです。過去の経済危機の後、ここから抜け出せない企業は未だ多く存在しています。短期的な施策は結果が出やすいため、「生き残る」ためには一時的にはすべきですが、こういったデメリットも考慮しながら進める必要があります。
長期的な視点としては、投資家が企業投資を行う際の指標のひとつである「ESG投資」の視点をもつことが大切です。環境(E)や社会(S)、企業統治(G)に力を入れている企業は、総じて財務パフォーマンスが高く業績を伸ばしているという研究結果があります。ESG投資という考え方を取り入れて、環境(E)、社会(S)、企業統治(G)に力を入れる企業が投資家に支持される傾向はコロナ後も変わらないはずです。ただ、「生き残る」ことが必要な現状のコロナ禍においては、環境(E)や社会(S)よりも企業統治(G)にあたるコーポレートガバナンスを優先せざるを得ない状況でもあります。この時に留意すべき点としては、企業の危機対応という企業統治のやり方次第で、社員のモチベーションに影響があるということです。
ここで改めてモチベーションとは何かですが、JCDでは、モチベーションを以下の通りの定義としています。
●個人内に生起するエネルギッシュな一組の力
●行動を引き起こし、その形態、方向、強さ、継続性を決定する
つまりモチベーションとは、エネルギーなのです。新型コロナ禍のような特殊で困難な事態に直面した今だからこそ、企業が今後も成長していく鍵を握るのは、こうした社員個々のモチベーションをいかに上げていくかにかかっているとも言えるのです。
講演内容は、Zoomウェビナーを用いてライブ配信されました。
いままず企業がすべきは「行動改革」
ここで新型コロナ禍後に企業に求められる、モチベーションを高めるための施策について、3つの提言をします。
1つ目は、「変化対応への意識と行動改革」です。
ここでまず大切なことは、「理念」の再確認とこれからの社会を踏まえた「経営ビジョン」ンの発信と浸透を図ることです。実際にビジョンや理念の浸透には、実はモチベーションと正の相関関係があるとことがわかっています。「自らの会社のビジョンや理念を実現したい」という気持ちと、「がんばろう」という気持ちの関係性をみると、「自分の会社のビジョンや理念に共感している人ほど、この先がんばろうという気持ちをもっている」という調査結果がでているのです。
また一方では、自らの会社の理念や行動指針が社員に浸透している組織ほど、自律性をもって「やってみたいこと・挑戦したいことがある」をもっている社員が多いという調査結果もあります。このことからも、「理念」「ビジョン」の浸透は、社員に自律的な行動を促すきっかけとなることが分かります。
そして、そのような変化に対応するための新しい自律的な行動は、特に30代、40代の次世代リーダー層からの提案が期待できます。30代、40代は、一般的にも起業家の中心であり、仕事のやり方や自らの考え方を理解した上で新しい考えに柔軟な世代です。この次世代リーダー層にアイデアを提案させる仕組みづくりや、そのアイデアを実現させるための経営陣のサポートも重要になってきます。
つまり、理念の再確認やビジョンの発信と浸透を進めることで、コロナ禍のような逆境にあってもそれを乗り越えようとする自律的な「変化の意識」を醸成し、行動改革のモチベーションを高めていく。また、その改革の旗振り役として活躍するはずの次世代リーダー層の動きを後押ししていく、ということが必要になってくるのです。
そして実施したい「風土改革」「インフラ整備」
2つ目は、「リスク情報を迅速に吸い上げるための風土改革」です。
もし仮に自社が堅実経営をしていたとしても、それこそ外部環境による影響は免れません。例えば連鎖倒産リスクなどもその一例です。常日頃から社内においてなんでも話せるオープンな組織風土にしておくことが、リスク情報を的確に得るために必要となるでしょう。
そして3つ目は、「新しい働き方に対応したインフラ整備」。
職場のコミュニケーションのあり方と働く環境がコロナ禍で大きく変化したことを踏まえ、対応していく必要があります。新しい働き方としてリモートワークが標準化されていくなかで、コミュニケーション(人間関係)の仕組みを見直すこと、そしていわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)と呼ばれる環境整備をすることが、モチベーションを支える重要な要素となります。
このように3つの施策をしっかりと実行していくことで、最終的には企業の成長につながると確信しています。私自身が20年の経験から肌で感じてきたことになりますが、厳しい時代や状況にあってこそ人材に投資する企業は、その後成長しているように思えます。やはり企業成長の鍵を握るのは社員のモチベーション育成にあるのではないでしょうか。人材への投資は、大切だとはわかっていても、どうしても後回しになりがちです。それは投資効果があらわれるまで時間がかかること、また投資効果が目に見えない点が大きいでしょう。そこで思い出してほしいのが、冒頭で申し上げた「短期的な視点・対策だけでは一時的な危機は乗り越えられても、今後の成長まで見込めない」ということです。ですから人材分野でも短期的視点と長期的視点を組み合わせた施策をとってください。その折に成長に影響を与える「鍵」をみつけ、その「鍵」に対して有効な施策を打つこと。その効果をPDCAサイクルとして回しながら検証・改善していく。これが企業の長期的な活動において、最短距離で結果を出すことにつながるのです。
これからの人事は「社内HRコンサルタント」として現場と対話を
JCDではこれまで数多くの企業様に従業員満足度調査を行ってきました。その中でよくご担当者様から「本音で回答してくれるのか」「調査結果をどう使えばよいか」というご相談を受けることが多々あります。社員たちから本音で回答してもらうためのポイントは、調査結果を必ず全社に公開する。調査で出てきた課題に対して施策を必ず実行する。そして会社が良くなっている姿を社員に実感させることが大切です。これらを確実にやっていただくことで、年々社員からの回答が本音ベースで引き出せるでしょう。調査結果については改善目標を現場に自律的に考える仕組みを作ってください。施策は上からの指示でやるとどうしても"やらされ感"がでてしまい良い結果につながりません。そしてもうひとつ大事なのは、人事の方が現場と対話をしながら良い組織を作ろとする心がけです。現場の管理職は組織を変えていきたいという気持ちはあっても、何をどうすればよいかわからず具体的な行動は起こせない、というケースは多くの企業で見受けられます。その時に、人事部が現場の管理職に声をかけ相談に乗ってあげる、このようなサポートを通じて人事と現場の信頼関係が醸成され目指すべき組織の実現に向けてともに歩んでいくことができるのだと考えております。
以上は従業員満足度調査についての話ではありますが、このように今後人事を担当される方は、企業のビジョンを実現するための組織や人を作る「社内HRコンサルタント」としての意識をもって、ミッションを実行されてはいかがでしょうか。現場に丸投げではなく、困っていることに寄り添って対話を重ねていくことです。それが、今後アフターコロナにおいて成長し続ける企業の鍵となるのではないでしょうか。
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