- 人と組織の活性化
- Focus
2021.04.26
現在地の"見える化"からはじまる、組織活性化のストーリー
西武ホールディングス様 グループビジョン浸透と定点調査の取り組み
近年、組織間のコミュニケーション力強化・社員1人1人の仕事へのやりがいの醸成などの組織活性、また顧客対応力向上を目的とした社内の「ビジョン浸透」の活動が重要視されています。
今回は、西武グループの中核事業を担う「西武鉄道」「プリンスホテル」など80社の事業会社を統括、「でかける人を、ほほえむ人へ。」のスローガンをはじめとしたグループビジョンを推進している西武ホールディングス様に、その推進施策の成果、またその成果をたしかめる定点調査として導入した組織開発コンサルティング型クラウド「WILL CANVAS」(https://www.willcanvas.jtbcom.co.jp/)の具体的な活用方法についてお話を伺いました。
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【話し手】
株式会社西武ホールディングス
広報部 課長補佐 國島 敏宏様
株式会社西武ホールディングス
広報部 高野 友美様
【聞き手】
株式会社JTB コミュニケーションデザイン(JCD)
ワーク・モチベーション研究所 所⻑ 菊入 みゆき
(文中敬称略)
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※肩書きはインタビュー当時(2021年3月)のものです。
グループビジョンは、組織を方向付けする羅針盤
菊入
近年、企業や組織にとってビジョンを浸透させることの重要性が認識されていますが、西武グループにおいての浸透度や推進のための取り組みについて、まずはお聞かせください。
國島
西武グループは2006年にグループ再編を行い、現在に至っております。私自身は再編前に西武鉄道に入社し、運転士経験の後いくつかの部署を経て6年前に現在の広報部に配属され、それ以来グループビジョン浸透・推進における様々な施策に携わってきました。再編前の西武グループは、強いオーナーシップの下で事業推進をしてきた経緯があります。当時はビジョンや経営理念といったものが曖昧で、唯一「社是」が存在したのみでした。
再編時には現在の西武ホールディングス社長の後藤が、グループ各社が同じ方向を向いて事業を進めていくための、いわば羅針盤のようなものが必要であると考え、グループビジョンが制定されました。
再編にまつわる改革には2つの側面がありました。1つは組織を見直すハード面、もう1つはグループビジョンを通じて社員たちの意識を1つにするソフト面での改革が大きな目的です。グループ全体で約23,000人の社員に、いかにグループビジョンを浸透・推進していけば良いのか。今なお大事な役割であると認識しています。
菊入
國島さんは、まさに西武グループの歴史やストーリーの中で、直にグループビジョンの重要性に触れてきたわけですね。グループビジョンの浸透度に関する調査も2006年より継続して行われてきたと伺っていますが、ご苦労された点などありますか。
國島
西武グループは鉄道事業、ホテル・レジャー事業、不動産事業を中心に、大きく分けて6つのセグメントで構成され、事業が多岐に渡っています。このような状況下で同じグループビジョンを社員1人1人に浸透させていくためにはどうすればよいのか、前任者たちも試行錯誤を重ねての取り組みでした。たとえば本社部門と現業部門では同じ環境を持っていません。デジタルと紙媒体を併用するなどシステム化の違いや、長年継続していく中でグループビジョン浸透のためのイベントを企画するにしてもマンネリ化して本来の目的達成に至らないのではないかといった懸念がありました。
グループビジョンをただ伝えるだけでなく、いかに社員が興味をもって主体的に参加し、自身の業務とグループビジョンを紐づけて捉えてもらえるような企画づくりができるか、についてなども苦心したところです。
株式会社西武ホールディングス 広報部 課長補佐 國島氏
高野
グループビジョン定点調査アンケートを毎年実施していますが、その中でも「認知・理解」についての評価が高いんですね。私が担当になって改めて思ったことは、ここまでビジョンを創り上げ、そして浸透させてきた道のりがけっして平坦ではなかったのだろうな、ということでした。自分が担当することになって、継続していくことの大切さを改めて実感すると同時に、この流れを絶やさないためにはどうすればよいか、常に考えるようになりました。
國島
グループビジョンの浸透・推進においては「認知・理解・共感・行動・伝播」というフェーズを進めることを目標としていますが、それぞれのタイミングでより効果的な結果を生み出すために、JCDさんにもご協力いただきながら進めてきました。
高野
施策の1つとして、2008年から「ほほえみFactory」(グループ内の横断的な連携を目的に実施し、グループ各社から集まった社員が経営層にグループビジョンを実践する施策やアイデアを提案する社内イベント)を行ってきましたが、2019年はさらに参加者の職場の管理職なども巻き込んで実施することにしました。管理職級の人たちの理解の下で、職場単位で参加していただき、多くの人を巻き込んで実施できたことで、グループビジョン推進の要となる職場全体の一体感を醸成できたと思っています。
株式会社西武ホールディングス 広報部 高野氏
菊入
グループビジョン浸透・推進を継続してきたことで得られた効果はいかがでしょうか?
國島
自分の仕事を通じて、また他部署との調整を進める場面などで、常にグループビジョンに照らし合わせて考える習慣が社員1人1人に定着してきたことが成果ではないでしょうか。各個人がグループビジョンの意義を捉えて、どのように自身の業務や事業に反映させていくのかを考えて行動するようになったと思います。
私が仮に経営者であれば、収益と経営理念のどちらが大事かと問われれば、やはり収益と答えるでしょう。ですがきれいな収益は正しい経営理念がなければ得られません。どちらかに偏るのではなく、組織は両軸があってこそ成り立つのではないでしょうか。経営理念としてグループビジョンが常にベースにあり、かつ達成する目標として存在させるには、やはり継続して発信していくことが大切だと考えています。
高野
継続して発信してきたことで、従業員の皆さんがグループビジョンを特段意識しなくても、日々の仕事の中でグループビジョンに根付いた行動をしていると感じています。それがきっちりと活かされた行動をしていると、皆さんに伝え、フォローしていくことも私の役目だと思っています。
菊入
ワーク・モチベーションの観点からみても、没頭する少し手前くらいの方が高い成果を挙げられるという研究成果があります。従業員の方々が、担当業務に集中して取り組みつつ、グループビジョンに立ち戻る機会を持つのは、成果にもつながる素晴らしいことだと思います。
株式会社JTB コミュニケーションデザイン ワーク・モチベーション研究所長 菊入みゆき
2020年の定点調査は、紙ではなくWEB調査に変更
菊入
継続して実施しているグループビジョン浸透・推進意識調査についてお聞かせください。
國島
先ほど西武グループには様々な業態の会社があるという点について述べましたが、私たちグループ社員は、実に7割近くが現場で働いています。職場や職種によってはパソコン環境が各個人に行き渡っていないこともあり、これまで紙媒体を使って調査をしてきました。ですが、コロナ禍の状況ではそうもいきません。休業などにより出社していない社員も多くいるわけですから。今までのやり方が通用しない。そのような状況の中で、今回はじめてWEBアンケート調査を導入しました。初めての試みなので困難なことも多かったのですが、それ以上に収穫も大きかったですね。また、WEB実施に向けた各社グループビジョン推進担当者の協力によって、繋がりも強化された。そのように感じています。
高野
WEBでの調査実施にあたり、改めてアンケートの設問設計を見直しました。特に重点を置いたのは、コロナ禍において聞くべき質問項目・内容の精査です。さらに自由回答できる設問を多く増やして回答者の生の声を多く得られるようにしたり、多肢選択型の設問を多用したりするなどして、今後の検討材料を多く収集できるよう工夫しました。
ただやはり一番の懸念は、個人単位でのパソコン環境が十分ではない当社グループで、いかにWEBアンケートでの回答数を集めるのか・・・という部分でした。ただ、回答数が少なかったとしても、そのこと自体も今後のグループとしての改善課題として受け止めようと考えを切り替えることにしました。結果としては、回答方法のフォローなどをしたことにより、想定を上回る回答数を得ることができました。
また、グループ内の各社グループビジョン推進担当者に、分析結果をもとにした課題整理、今後のアクションプラン策定などの取り組みを実施してもらったことも、それぞれの会社事業とグループビジョンのつながりをあらためて考えるきっかけになったのではないかなと思います。
菊入
非常に興味深いお話ですね。WEBだとなんとなく即物的に捉えられがちですが、逆にグループ内での繋がりが強化されたり、それぞれが自分ゴトに捉えて次の行動につなげることができたというわけですね。
調査でわかった"仕事へのやりがいと誇り"をもった社員の増加
ニューノーマル下「新しく挑戦すること」への意識も高まる
菊入
「グループに対する誇り」や「グループ意識」、「会社に対する誇り」の調査結果で、良い回答が得られた要因はどこにあるとお考えですか?
國島
今回の調査は継続・新規設問を大きく7項目に分けた内容で実施しました。組織や業務に関する意識やグループビジョンの実践意識など、多くの設問に対して高評価される回答が多かったです。それでもモチベーションについての設問に対しては、下がっていると回答された社員が多かった。この結果を分析してみると、我々としては、"グループビジョン浸透に関して"でいうとプラスにとらえられるなと考えています。自由回答欄で「どんな時にやりがいを感じるか?」という設問に対して「お客様にありがとうと言われた時」「接客をした時」という回答がとても多かったのです。つまりコロナ禍による休業で多くの社員がお客様と接する機会を喪失したことで、モチベーションが下がった。これは逆に捉えてみると、普段の業務についてグループビジョンがしっかりと根付いていて、自分の仕事へのやりがいとして活かしている表れではないでしょうか。
過去14年にわたり調査を続けてきた中で、再上場した時と東日本大震災の時、そして今回のコロナ禍において、仕事へのやりがいと誇りを感じている数値が高くなっています。自分たちの会社の公共性が高く、社会から必要とされている仕事であることを、こうした機会に改めて認識させられた点は、調査を継続してきて良かったと思っています。
高野
「ありがとう」がモチベーションに繋がっている・・・という部分に関連して、お互いに感謝の気持ちを伝える「『声』で元気に!プロジェクト」という、グループ内でお互いに感謝・激励をする取り組みを実施しています。例えば「コロナ禍で大変な時でも、いつも安全運行してくれてありがとう」だったり「お客様のために笑顔で接してくれてありがとう」といった言葉を、グループビジョンの浸透につながる様々な情報を発信するグループ報 「ism」でしっかりと発信したのです。コロナ禍でお客様と接する機会が減っても、社員同士で励まし合うような取り組みが推進できたことも、私はグループや会社への誇りにつながった一因であると思っています。
またこの取り組みでは、グループ会社それぞれの社長が社員に向けたメッセージ動画を発信しました。社員がスマートフォンでも観られるようにして配信するといったこともやりました。こうした1つ1つの積み重ねが成果につながったと信じています。
菊入
定点調査を毎年継続してきたからこそ出現した課題やそこから生まれた施策などございますか?
國島
先ほどご紹介した「ほほえみFactory」について、管理職にも積極的に参加してもらうような仕組みづくりをしました。というのも、社員が挑戦することへの阻害要因として「上司の理解や職場の理解が得られない」というファクターが挙げられたからです。であるならば、職場全体を巻き込んでしまえば良いという発想です。こうしたことは定点調査アンケートの結果を反映して採り入れました。ただ調査しただけで終わるのではなく、その結果を踏まえた行動や施策を打ち出していくのが私たちの使命だと思っています。その前提として継続して積み重ねていくことの大切さを実感しています。
2019年度実施「ほほえみファクトリー」の様子
菊入
「時代を先取りして新しいサービスを提案する」「新しい感動を提供する」といった調査項目で高い数値がでていましたが、どのようにお考えでしょうか?
國島
当社は、「『お客さまの行動と感動を創りだす』サービスのプロフェッショナルをめざします。」というグループ宣言のもとで、「誠実であること」「共に歩むこと」「挑戦すること」という3つの指標を掲げています。これまでは特に安全を第一に掲げていましたが、コロナ禍による価値変容・行動変容の中で、挑戦することへの意識が強く芽生えました。この結果に関しては社長の後藤からも、こういう状況下で挑戦に対する思いが伸びたことは、とても心強いと感想をいただきました。
菊入
そうなんですね。私自身はとても尊い変化だなと思って拝見していたんですが、やはりこういった大変な時でも「なんとかしていこう」という気持ちの表れが出ていますよね。それがグループビジョンにも繋がっているのが素晴らしいと思います。
ダイバーシティ、SDGsへの理解とこれからの取り組み
菊入
ダイバーシティやSDGsについて質問項目に入れていますが、その必要性や重要性について、多くの方が高い数値で必要と回答しています。この結果をどう見るか、またそれを踏まえた取り組みなどご紹介ください。
國島
ダイバーシティやSDGsについては、多くの社員が必要だと感じていることがわかりました。ただ、日常の業務でどう実践していけば良いのかが分からない。ただ、これらの考えは、共にグループビジョンに含まれているものだと思っています。実現していくためには、グループビジョンの実践が何よりも求められます。
西武グループでは、SDGsを実現するためのグループでできる施策について「サステナビリティ・アクション」として中期経営計画に盛り込まれています。これを実施していくことが、実はグループビジョンの実践にもつながっているのです。つまりグループビジョンに忠実であれば、持続可能な社会目標の実現に貢献できるというわけです。
菊入
なるほど、おっしゃる通り、グループビジョンに包含されている部分も多いですよね。弊社では2015年からダイバーシティ調査の設問設計・実査・分析をお手伝いしておりましたが、今年はそちらもWILL CANVASでのビジョン浸透調査と統合して実施させていただいたんですよね。また、同じくお手伝いしているダイバーシティカレッジ(将来の西武グループにおける女性リーダーを輩出する組織として設立した、社内キャリアアップコミュニティ)も非常に盛況で、卒業生の方も実際にご活躍されていると伺っています。
「ダイバーシティカレッジ」の様子
■ダイバーシティカレッジに関するインタビュー記事(2017年)
https://hr.jtbcom.co.jp/achievement/casevoice/187/
WILL CANVASでの調査導入により
調査から報告へのサイクルが3ヶ月早まった
國島
今回の調査にあたっては、私たちの要求課題に応える最適なシステムの構築をお願いし、こちらが知りたかった部分を浮き彫りにしていただきました。約23,000人の全社員を対象にして実施しましたが、回答者を特定できない個人情報の秘匿のための設定など、こちらの要望に合わせてカスタマイズできる点も大変ありがたいです。そして何よりも調査実施を経た後の結果報告の期間がぐっと短縮できたのはメリットが大きいです。調査を作り込むまでは大変ですが、結果をまとめる処理が短縮できた点や結果の見やすさといったインターフェイスがWILL CANVASは特に秀でています。通常調査から経営会議で報告するまでに、これまでは5ヶ月くらいかかっていましたが、今回は約2ヶ月で報告することができました。
高野
今回はじめてWEBで調査を実施したのですが、他部署の方から「よくやったね!」「紹介してほしい」と声をかけていただきました。これまで紙の調査でしかできないと思い込んでいた固定観念を見事に打ち破ってくれたという声が多く、良い意味で社内外や現場からの注目を集めることができました。
「WILL CANVAS」調査結果閲覧の様子
"羅針盤"を様々な形で意識する機会をつくり、現在地を"見える化"する
グループビジョン浸透は、社員のエンゲージメントにも寄与
高野
グループビジョン制定15周年の節目の年に、何かの形を残したいなと思い、社内向けの15周年記念動画や各社社長からの社員へ向けて感謝や激励を伝える動画も作成しました。私自身の立場でいうと、今後は直接お客様に対峙して、お客様の笑顔をお届けする業務を担当するので、これからも現場でグループビジョンを実践・体現していけたらなと思っております。
グループ各社社長からのメッセージ動画
國島
広報部着任から約6年、一貫してこの仕事を担当してきて、私自身も着任当時から変化してきたと思います。着任当時は、グループビジョンってそんなに重要視されているのか、というのが率直な感想でした。しかし、実際にグループビジョン浸透を推進していく中で、やはり社員が働きつづけていく中でいつも立ち返るべき"軸"があり、それがいつも"見える化"され、自分ゴトとなっていることが、モチベーション維持につながるのだということを強く感じてきました。
また、今は転職が当たり前の時代になりつつあります。多種多様あるキャリアの選択肢の中で、社員が「この会社で働きつづけたい」という気持ちを持つ、つまりエンゲージメントを高めていくためにも、その会社のビジョンに共感するかどうか?というのは非常に重要なファクターになるので、社員を会社に繋ぎとめるためにも必要なことなのだなと思っています。
菊入
所属する組織のビジョンに共感し、それを軸に行動することは、実は自律性を高める効果があります。判断基準が明確なので、その基準に照らし合わせることで、自身で判断できる範囲が広がるからです。そうなると、自分で決めて行動しているのだという決定感を持てますし、その感覚は仕事へのモチベーションを高めます。まさに「この会社で働き続けたい」という気持ちにつながるものだと思います。
社会の動きが激しく、予想しにくく、1人1人の価値観も多様になる現代では、ますますこうしたビジョンへの「認知・理解」「共感」「行動」「伝播」が重要になっていきます。今日うかがったお話は、今後の組織運営について明るい未来を指し示すような貴重な内容でした。ありがとうございました。
■株式会社 西武ホールディングス様 会社情報
本社所在地 :東京都豊島区南池袋一丁目16番15号
設立 :2006年2月3日
資 本 金 :500億円(2021年3月現在)
売 上 高 :239億円(2020年3月期)
従業員数 :305人(2020年3月31日現在) ※グループ全社員は約23,000人
URL :https://www.seibuholdings.co.jp/