- 人と組織の活性化
- Report
2021.06.18
コロナ禍における「経営理念」「ビジョン浸透」の重要性と取り組み施策
HRカンファレンス2021春 セミナーレポート
年間4万人以上が参加するHR領域のビッグイベント「HRカンファレンス」。今回の2021年5月実施時も、経営課題や働き方改革、組織開発、人事制度など、HR領域全体を網羅したテーマで約200セッションの講演が2週間に渡り開催されました。そのなかでJTBコミュニケーションデザイン(以下JCD)では、HRコンサルティング事業局のチーフコンサルタント 佐藤昌弘が、コロナ禍、そしてニューノーマル時代に向けた経営理念やビジョン浸透について、事例を交えながら講演を行いました。その内容をレポートいたします。
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株式会社JTB コミュニケーションデザイン(JCD)コーポレートソリューション部
HRコンサルティング事業局 チーフコンサルタント 佐藤 昌弘
大手コンビニエンスストアにて教育・研修を担当。その後、外資系生命保険会社へ転職。営業活動に従事したのち、大手銀行へ出向。行員に対する保険販売手法の教育・育成を担当する。現在は自身の教育・営業経験を生かし、様々な企業様へコンサルティングを実施している。
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- なぜ企業の「ミッション」「ビジョン」は重要なのか
- 約半数近くの社員が「自社のビジョンを知らない」という事実
- 「企業理念」「ビジョン」の浸透化ステップ A社様の場合
- 認知・理解・浸透・行動 フェーズごとのポイント・施策とは
- モチベーション向上やエンゲージメント強化に有効なビジョン活用
1 なぜ企業の「ミッション」「ビジョン」は重要なのか
企業を取り巻く社会・市場環境において不確実性・複雑性・曖昧性といった要素が今後もさらに増え続けていくと予想されます。また、新型コロナウイルスが拡大したことにより、テレワークをはじめとした働き方改革が一気に加速。働く場としての環境が大幅に変わったことで、社員の将来の不安が増したり、社内コミュニケーション不足が指摘されたりと、様々な問題が顕在化されました。こうした状況下においては、企業の在り方も問われます。今後は、より社員のモチベーションを高めつつ、エンゲージメントを強化していく施策の必要性が求められるでしょう。
エンゲージメントを強化していくこと、社員1人1人が組織に愛着を持ち、社員と企業が一体となってお互いに成長し合い、深い絆で結ばれた関係をつくることを目指します。では、コロナ禍においてエンゲージメントを高めるためにはどのような施策が必要なのでしょうか?
JCDで2020年に行った調査の中で、「『現在の会社』で働いていることを『誇り』に思う」「自らの会社のビジョンや理念を実現したいと思う」という設問に肯定的な回答をした人ほど、「『がんばろう』と思う」と回答した人の割合が高くなっていることがわかっています。
◆参考:ウィズコロナ時代のモチベーション調査
https://www.jtbcom.co.jp/article/hr/1086.html
ニューノーマル時代においては、社員間や上層部とのコミュニケーションがリアルタイムではかれない状況だからこそ、"社員が共感できるミッションやビジョンの明確化"がエンゲージメントを高めるひとつの要素として、今後ますます重要な役割を占めるはずです。
2 約半数近くの社員が「自社のビジョンを知らない」という事実
会社のビジョンに関する意識と浸透に対する課題を把握するために、JCDでは2020年6月に「ビジョン浸透度調査」も行っています。
◆参考:ビジョン浸透度調査
https://hr.jtbcom.co.jp/column/2328/
そのなかで自社のビジョンに対しての認知度を尋ねたところ、約半数が知っていると答えたものの残りの約4割の方が、その存在も含めて知らないという結果になったのです。先ほど企業ミッションやビジョンの重要性についてお話ししましたが、実際に企業を取り巻く状況を見てみると、ビジョンは必要であり、大切なことはわかっているが、実際は約半数近くの社員がそれを認知していないのが現実でした。
さらにこの調査で自社のビジョンを知るきっかけを調べてみると、会社説明会や社長訓示、社内広報や自社サイトからビジョンは認知されることが多いようです。このことからも企業として積極的にビジョン発信をしていく必要があることが分かります。
そしてビジョンは提示されるだけでなく、社員個人それぞれにしっかりと理解して、自分の業務に落とし込まれていなければなりません。個人レベルまでビジョンを浸透させていくためには、社員同士でのビジョン共有のミーティングや、社内セミナーの場などで日頃からビジョンについて語り合い、共有できる場や機会を持つことが重要なのです。
こうして企業内の個人に浸透したビジョンは、業務の目的を明らかにし、個人、ひいては組織のモチベーション向上につなげることができるのです。モチベーションの向上は、結果的には個人のパフォーマンスを高め、個々の成果に繋がっていきます。
3 「企業理念」「ビジョン」の浸透化ステップ A社様の場合
ビジョンを各社員へ認知・理解してもらい、さらに浸透させ、そして各個人の行動へとつなげていくための一連の浸透化の流れをみてみましょう。
まず経営幹部や管理職の立場の人間が積極的にコミットメントし、リーダーシップを発揮して進めていくことです。経営者や管理職が率先垂範してビジョン浸透を図りましょう。これができていないケースでは、従業員への浸透化を目指すのは困難です。上の立場にある人自らがコミットメントし、行動している姿を常に見せることが重要なのです。その上で浸透化のサイクル(認知→理解→浸透→行動)のPDCAを行ってください。
では実際の浸透化のモデルプランをご紹介します。約3年間にわたりJCDでお手伝いさせていただいた、ある集客施設を有するA社様のビジョン浸透の事例です。
まず最初に、その施設を利用するお客様がどのようなイメージを持っているかを掴むアウター調査と、あわせて社員向けにインナー調査を始めました。この結果をもとにビジョン浸透を進めるために組織した委員会で、キックオフミーティングを実施。3カ年計画の策定からスタートです。
最初の6ヶ月間を「ビジョンメイクフェーズ」として位置付け、委員会メンバーへの研修や現場情報の吸い上げ、目指すべき姿やビジョンの検討と策定を行いました。
これらの準備期間を踏まえて、第2段階「認知・理解フェーズ」の最初にキックオフイベントを開催して、全社向けにビジョンメッセージを発信。この時期の1年間は、現場社員への認知・理解を進める活動が中心になります。
1年が経過した後でアウター(お客様)・インナー(社員)双方で、ビジョンが浸透しているかどうか調査を行いました。この調査結果を踏まえて第3段階の「浸透化フェーズ」で更なるビジョン浸透への施策を続けていったのです。最終的には顧客満足度を上げていくというテーマを実現するために、しっかりとビジョン浸透が図られたケースとなりました。
4 認知・理解・浸透・行動 フェーズごとのポイント・施策とは
【認知フェーズ】
●まずはビジョンそのものの"存在を知らしめる"こと
潜在意識までビジョンの存在がしみこむように目・耳・口に訴えることがポイント
施策例
→「トップメッセージ」によりビジョンの存在を発信
→各部署ごとに管理職から各部署へ、朝礼やミーティングを通した伝播
→従業員が日々目にするツールへの展開(ポスターや手帳・カード・メールマガジンなど)
【理解フェーズ】
●ビジョンに込められた意味や重要性を理解してもらう
施策例
→階層別に「浸透化研修」の実施 (経営層→管理職→一般社員)
→管理職層向けの浸透化ガイドの策定・配布
→部署別/個人別 浸透化プランの策定
→OJT・定期面談などの場での管理職からの指導 など
さらに、JCDではビジョンの伝道師というような存在として「アンバサダー」を育成することを推奨しています。ビジョン策定時からその後、社内に伝えていく役割を意識させることで、浸透化までスムーズに移行することが可能です。
【浸透フェーズ】
●社員が折に触れビジョンについて意識し、行動しつづける仕組み作り
施策例
→朝礼や部署ミーティングなどでお客様の声や社内での気付きなどを題材にして、「共有会」を実施
→好事例(お客様・社員間・株主など)の収集および共有活動の実施
→社内報などを活用した活動内容の発信 など
【行動フェーズ】
●ビジョンに沿った行動への動機づけをすること
施策例
→部署別/個人別浸透化プランおよび成果の検証・改善
→ビジョンに沿った行動事例の選定・事例集の作成
→ビジョンに沿った革新的行動・成果につなげた社員褒賞
→人事評価制度などへの反映 など
5 モチベーション向上やエンゲージメント強化に有効なビジョン活用
ビジョン浸透の最大のメリットは、社員のモチベーション向上やエンゲージメント強化につながっていくことです。そのために、まずはビジョンを認知させ、日々の業務にそれを落とし込んでいくことが大切です。ビジョン浸透活動の1番のポイントは、経営層・管理職の方が現場の声を聞き続けること。この姿勢をまずはしっかりと示しましょう。経営層・管理職と社員の両者がともにビジョンに対してブラッシュアップする気持ちを持ち続けることが、ビジョンを浸透させる近道となるのです。
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