- 人と組織の活性化
- Report
2022.02.14
企業のSDGs活動を加速させる組織・人材づくりのポイント
JCDワーク・モチベーション研究会レポート SDGsとモチベーションの関連性とは
JTBコミュニケーションデザイン(JCD)のワーク・モチベ―ション研究所では、組織活性や人材育成に関わるメンバーを中心に、「ワーク・モチベーション研究会」と題して、月1回の勉強会を開催しています。今回はオンラインで、昨年9月に実施した「SDGsと社員のモチベーションに関する調査」の結果を元に、情報共有・意見交換を行いました。調査結果を読み解くとともに、お客様のSDGs推進をどのようにサポートできるか、具体的なソリューションのご紹介とともにレポートします。
<参加メンバー>
菊入 みゆき(ワーク・モチベーション研究所所長・明星大学特任教授)
冨山 智香子(コーポレートソリューション部 HRコンサルティング事業局 コンサルタント)
戸田 結衣(コーポレートソリューション部 HRコンサルティング事業局 HRコンサルティング課)
風見 奈穂子(コーポレートソリューション部 HRコンサルティング事業局 営業推進課)
井出 龍樹(コーポレートソリューション部 HRコンサルティング事業局 営業推進課)
水下 俊一(コーポレートソリューション部 モチベーションイベント局)
- 調査から見えた、企業の取り組みと社員モチベーションの関連
- 社内浸透のキーワードは「自分ごと化」「きっかけや仕掛けの提供」
- 企業のSDGs活動を加速させる組織、人材づくりに必要なこと
- 【具体事例】SDGs推進の社内浸透に成果のある取り組み
- 接近モチベーションのアプローチでSDGsをとらえよう
1 調査から見えた、企業の取り組みと社員モチベーションの関連
菊入
2021年9月に実施した「SDGsと社員のモチベーションに関する調査」によれば、会社員のSDGsの認知度は80%を超える高い水準であることがわかりました。普段、皆さんは業務の中でSDGsへの取り組みを意識したり、お客様と話題にしたりすることはありますか?
井出
SDGs推進やダイバーシティにまつわる話題は、日常的に耳にするようになりましたね。仕事ではイベント運営の上で、印刷物やごみの削減など、環境に配慮したイベント運営をすることが当たり前になりつつあることを感じますね。
風見
営業として訪問するお客様のWebサイトに、SDGsや環境への取り組みが掲載されるようになり、企業の意識の高まりを感じています。
菊入
私が関わる大学生たちも、企業の社会貢献やSDGsへの取り組みに強い関心をもっています。就職活動でも重要な指針のようです。
さて、今回の調査は、"SDGsへの取り組みがその会社の社員の働く意欲に何らかの影響を及ぼしているのではないか"、という仮説を立てて実施しました。従業員500人以上の比較的規模の大きな企業に勤める、一般社員から部長クラス、20代から60代までの1,030人が対象です。調査結果から注目すべきポイントを振り返ってみます。
① 認知度・理解度
まずSDGsに対する認知度ですが、82.5%と高い水準を示しました。某新聞社が一般を対象にしたサンプリングによるSDGsの認知度調査(2021年4月実施)では、認知度が約45%でしたから大きな差です。ビジネスという面で社会参加をしている会社員の関心が、一般よりも高いことは明白です。 一方、理解度は56%で、「なんとなく知っているけれど、実のところよくわからない」層が多いことが見てとれます。役職が上がるにつれて、理解度が高くなる傾向です。
② 会社の取り組みへの評価と期待
自社のSDGsへの取り組みを評価しているという回答が2割にとどまる一方、「取り組むべき」と期待する声は約5割に上ります。特に課長以上の役職の約6割が「会社として取り組むべき」と回答し、企業の中核を担う立場から「社会課題の解決と会社の利益」を考慮しているさまが見てとれます。また、評価している人は「企業全体で取り組んでいる」こと、「具体的な施策が推進されている」こと、「社長や経営層が積極的である」ことを評価理由に挙げているのに対し、評価していない人は「宣言はしているが具体性がない」、「社員にメッセージが届いていない」という理由を挙げています。
③ モチベーションとの相関関係
様々な質問の相関性を見るために、クロス集計で相関分析を行ったところ、おもしろい結果が見えてきました。会社のSDGs達成施策の中で、社員のモチベーションと最も関連性が高かったのは、「社員に対して、SDGs達成の意識を高めるような告知や教育などの活動を行っている」ことでした。
また、SDGsにおける17の目標の中で、就業継続意欲など社員のモチベーションとの高い関連を示したのは、目標8の「働きがいも経済成長も」でした。
④ 社員が会社のSDGsへの取り組みを知る機会
社員が会社のSDGsへの取り組みを知る一番の機会は、「社長や経営層からのメッセージ」。注目したいのは、役職者と一般社員では、情報に触れる機会や頻度にギャップがあることです。特に一般社員の約3割が「わからない」と回答しており、経営層の発信がどこかで途切れている可能性も考えられます。
今回の調査結果から、SDGsへの取り組みが社員のモチベーションに関与することがわかりました。社員のモチベーションの向上は、結果的に会社の業績向上に寄与しますから、会社はSDGsに取り組んだ方がいいですね。そしてSDGsに取り組むなら、まず社員への告知や教育が重要です。特に社長や経営陣がSDGs達成に真剣に向き合い、社員に向けて直接メッセージを発信すること。そこから一般社員に至る一人ひとりが理解し自分ごと化できるところまで告知や教育を繰り返し、落とし込む必要があります。
2 SDGsの社内浸透には、自分ごとにするきっかけや仕掛けの提供がカギ
戸田
会社の取り組みへの評価理由についてなど、共感できる点も多かったです。取り組みの必要性は頭ではわかっているけれど「取り組むべき」と思っている人が約5割とのことですが、残りの5割にとってはまだ「納得感」が足りないのかもしれませんね。
水下
気になったのは、部長クラス~課長クラス~一般社員にわたって意識に差ができていることです。私は局内でSDGs担当としてMICE事業においてどう取り組めるか?などとディスカッションしてきましたが、まずは一般社員も含めて、各々の自分の仕事と関連付けやすいところから具体的な取り組みに落とし込む必要がありそうです。
菊入
ポイントは「自分ごと化」です。まず自分たちに関係するところに着目して、そこから関連し合うところに活動を広げていく。やれるところから着手して、徐々にできることを広げていくという手法は、モチベーションの観点からもおススメです。
風見
SDGsの認知度や理解度について、私は年齢ではなく役職や立場(役割)で差が出ている点はおもしろいと感じました。営業活動や企業の業績に直結する立場の方が、一般社員よりSDGsに敏感なのかもしれませんね。
業務の中で意識することのない一般社員への啓発のきっかけとして、SDGsカードゲームのように「楽しく課題に触れられる」仕掛けを用意するのもいいと思います。
菊入
きっかけを提供できるかどうかも、社内浸透のカギですね。この調査結果は、これからの企業活動にSDGsは欠かせない視点であること、多くの社員が会社のSDGsへの取り組みを期待していることを示唆しています。同時に、実際の行動に落とし込むには課題があることも見えてきました。
冨山さんからは、「SDGsの推進を通じた組織活性は可能か?」というテーマでお話しいただけますか?
3 企業のSDGs活動を加速させる組織、人材づくりに必要なこと
冨山
先ほどの調査からも、SDGs達成へ取り組むことは社員のモチベーションに影響し、さらに会社の理念・ビジョンの実現、会社の成長や発展と密接な関係があるということが考えられます。では、企業がSDGsの取り組みに社員を巻き込み、モチベーション向上につなげていくにはどうすればよいか?これをテーマに、昨年秋のHRカンファレンスでお話しした内容を、少し共有します。
① 行動を起こすために必要な2種類の期待
SDGsへの取り組みに社員を巻き込むには、「なぜやるのか?」という理解を高めることが大前提で、告知・教育が重要だという点は、菊入さんからも指摘があったとおりです。行動心理学では、人間が行動を起こす際には「2種類の期待」が働くとされています。一つは、その行動によって何か「良さそう」な結果になりそうという、「結果への期待」。もう一つは、結果を出すことが「できそう」だという、「自分の効力に対する期待」です。企業のSDGs活動に社員を巻き込むには、社員がその活動に対して「良さそう」「できそう」と思える状態をつくることが大切です。
② 会社の理念とSDGsの接続
ところが、ここで問題になるのは、SDGsと社員の日常業務との次元が違いすぎること。SDGsの達成目標は壮大であり、社員は自分の目の前にあるジョブコミットメントに必死です。距離が遠すぎると2種類の期待も働かず、自分ごとになりません。両者の距離を近づけるために、企業側(=トップ・経営・マネージャー層)はSDGsに即した企業理念・ビジョン・価値観を発信、実践する必要があり、社員側も自身の視野を地球規模に広げ、SDGsの目標を自分とリンクさせていく努力が求められます。
そのうえで、社員が「良さそう」「できそう」と思える状態にするには、ビジョンへの「納得感」が大切です。理念に持続可能な社会への貢献を掲げていながら、会議では営業的な数字ばかり追いかけているのでは、「ビジョンは絵に描いた餅」となり2種類の期待が働きません。地球規模から会社規模、個人レベルまでの各層のビジョンはもとより、事業戦略や具体的な施策が一貫したメッセージで、社員一人ひとりに伝わっている必要があります。会社の理念とSDGsを接続させて、これを社員に伝えることが大切です。
井出
今の話を聞いて、SDGsと自分の間にあるギャップに対する疑問の答えが見えた気がします。そもそも見ている世界にギャップがあるのだから、具体的な施策に落とし込むには、まずビジョンを合わせる必要がありますね。
戸田
先ほどの調査結果ともリンクしますね。SDGsの告知や教育を行っている企業の社員は、「会社の理念やビジョンを、仕事を通じて体現している」と回答しています。会社のビジョンとSDGsは別ものではなく、会社の理念の延長線上にSDGsがあると考えられれば、心理的な距離感を縮められるかもしれないですね。
菊入
目標があまりにも遠いところにあるとモチベーションは上がりません。会社の理念とSDGsを関連付けて、「自社の理念、ビジョンに沿った事業活動をすれば、SDGs達成につながる」と理解できれば、目標が身近なものとなり、2種類の期待が働き、モチベーションにもつながりそうです。
4 【具体事例】SDGs推進の社内浸透に成果のある取り組み
菊入
皆さんが実際にお客様に提供しているソリューションの中でSDGsへの取り組みに関わるものはありますか?
① WILL CANVASにおけるSDGs設問の搭載
風見
私が担当する「WILL CANVAS(組織開発コンサルティング型クラウド )」では、従業員意識調査の項目にも、SDGsやサステナビリティ関連設問が新たに搭載され、従業員へのSDGsに対する理解度や関心度を測ることができるようになりました。
戸田
私も、あるお客様に「WILL CANVAS」をご提供した際、中期事業戦略の中にSDGsの目標が含まれていたので、従業員意識調査の設問に「働きがい」や「SDGsの認知」に関する項目を追加しました。結果として、まずは意識調査を通じて会社のSDGsに対する姿勢を社員に伝えることができたと思います。「WILL CANVAS」は、社員へのメッセージ告知や浸透にも役立つのではないかと気づきました。
② 既存の研修にSDGs視点を取り入れる
戸田
さらに、リーダー層向けの「企画提案研修」でも、お客様にとってのお客様(提案先)に向けてご提案する企画要素に、SDGsの視点が求められていることを理解していただく内容を盛り込んでいます。直接的な「SDGs研修」も必要ですが、会社がSDGsに関与していることを間接的に知らせる姿勢も大切だと思います。
冨山
私からは、現在多くの企業様からお問い合わせをいただいている、「リフレーミング研修」の事例をご紹介します。SDGsと社員の日常業務の次元の違いや、社員側も視野を広げる努力が必要だという話をしましたが、当社が提供するワークショップの1つ「リフレーミング」が、社員の視野を広げるのに役立つのではないかという事例です。
「フレーム」とは、私たちが日常ものごとを見る価値観や枠組みをいいます。「リフレーミング」とは、フレームを意図的に付け替えること。つまりいつもの価値観とは違う視点でものごとをとらえようという試みです。
ある大手企業において、「未来志向の企業活動に共感する機会を作る」ことを目的にこのワークショップを行ったところ、以下のような感想が寄せられ、今、社員に足りないのはコミュニケーションをとる機会だということを痛感しました。コミュニケーションを通じてリフレーミングすることで、SDGsという広義の目標と自分たちの立ち位置との距離を縮められる可能性を感じます。
菊入
新しい場や機会に接すると積極的になり、限定的だった発想が広げられるようになる。「新規性」が興味・関心を醸成し、内発的モチベーションに響く好例ですね。
③ 社内イベントも環境への配慮が顕著に
水下
社内表彰などのインセンティブイベントのご相談でも、まさに社内のコミュニケーション機会が不足しているという課題を耳にします。今はオンラインとリアルのハイブリッド型で開催されるケースが増えつつありますが、全員が集うことができない中でもいかに社内コミュニケーションを活性化させるか、工夫を凝らしているところです。
また、社内イベントを通じて社員へSDGsへの取り組み姿勢を示すことも有効です。たとえば、環境配慮型のイベントへのニーズは非常に高まっています。
ある医療機器メーカー様では、パンデミックを機に、サステナビリティへの取り組みに一層積極的になりました。年末に行われた社内カンファレンスは、環境への配慮からごみとなる資材の使用を極力避け、装飾物のほとんどを使いまわしできるファブリック(布)とアルミフレームで構成しました。短期間で撤収するイベントは、コストの観点からも環境に配慮した運営は難しいことがこれまでの定説でしたが、変わりつつあると感じます。
当社も「CO2ゼロMICE(注)」等を通じたカーボンオフセットの取り組み等、イベント制作現場での取り組みを加速していこうと考えています。
(注)CO2ゼロMICE:企業や団体が行う会議やコンベンション等において、実施会場で使用される電気を再生可能エネルギーに置き換え、CO2を実質0にすること
URL:https://www.jtbcom.co.jp/service/energy/co2zero/
菊入
社内イベントを通じて経営層のメッセージを伝えることもそうですし、また具体的に実践していることも伝えることで、社内のSDGsへの意識を有効に高めることができそうですね。ホットな話題をありがとうございます。
5 接近モチベーションのアプローチでSDGsをとらえよう
菊入
モチベーションには、よいことに向かっていこうとする「接近モチベーション」と、嫌なことや失敗を避けようとする「回避モチベーション」があります。回避モチベーションはインパクトが強く機動力がありますが、人に与える負荷が高く、ストレスやメンタルダウンにつながる傾向があり、長く続けることはできません。一方、接近モチベーションは持続性があり、クリエイティブで高い成果が生まれやすいことがわかっています。
SDGsへの取り組みは往々にして、「困難な状況が待ち受けているからそれを回避しよう」というアプローチで語られがちですが、継続的に取り組み、高い成果を上げるには、「接近モチベーション」のアプローチで取り組むことが大切ではないでしょうか。「よい地球にしていこう」、「住みやすい地域にしていこう」、「こんな取り組みをするわが町、私たちの会社ってちょっと自慢!」といった、自分たちなりの小さな目標や、よいことに向かっていくワクワク感の演出が、運営面で必要だと思います。
SDGsは、非常に意義のある真面目な取り組みだけに、達成にはモチベーションが重要です。みんなで達成の喜びを共感する、身近な目標、たとえば一番関心の高い「目標8.働きがいも経済成長も」から取り組みをはじめる、具体的な数値目標を決め小さな「できた」を積み重ねる、小さな「できた」の喜びをみんなで共有する、といった接近モチベーションの循環の仕掛けづくりを、私たちはコミュニケーションの専門家としてお手伝いできそうです。
冨山
今日、皆さんと情報共有する中で、当社は「地球規模のビジョン―会社のビジョン―個人のビジョン」の距離間を縮めるお手伝いができるのではないか?というイメージが鮮明になりました。従業員意識調査、ワークショップ、イベントなど様々な手法で、企業理念とSDGs、モチベーションを連結し、啓蒙や浸透の支援ができるのでは、と心を強くしました。
戸田
これまではSDGsを業務にどう落とし込むかというところが意識しづらかったのですが、これからは、今よりも一歩先の「もっとこうしたらいいな、こうなったら素敵だな、その先にはSDGsの達成が見える」という意識をもちたいと思いました。
風見
お客様もパートナーも、それぞれの立場によってSDGsへの関心度も違うんだろうなということが想像できました。これからは、ご担当者の熱量や知識、関心のレベルも意識しながら、必要なご提案をしていきたいです。
井出
「共感を醸成することが大切」という菊入さんの言葉が響きました。自分がこれから取り組んでいく仕事でも、お客様と共感ポイントをたくさん共有しながら、世の中全体がよくなる活動を意識して行動します。
水下
「課題解決」型のアプローチも大切ですが、「楽しさ、喜びを演出する」というアプローチは、JCDらしさが活かせる前向きなアプローチで、とてもよいと思いました。自分自身も、やっていて楽しい施策を少しずつ広げながら、局内のSDGs推進に努めていきます。
菊入
SDGsへの取り組みは、組織活性にも大いにプラスの効果があります。いろいろな立場の人たちが協力して、未来志向で会社や地球の将来を描き、楽しく、小さな喜びを重ねながら達成を目指したいですね。私たちも、ワーク・モチベーションやコミュニケーションデザインのプロとしてお手伝いできることを、これからも模索していきましょう!
参考
◆「SDGsと社員のモチベーションに関する調査」レポート
https://www.jtbcom.co.jp/article/hr/1236.html
◆ワーク・モチベ―ション研究会
JCDのワーク・モチベ―ション研究所と、JCDの組織活性や人材育成に関わるメンバーを中心に、月1回実施している勉強会。ワーク・モチベーションのプロとして、科学的、実践的な情報をお客様に提供すべく、"組織開発における対話の効果"や"ダイバーシティ"、"ワーケーション"など、理論研究や調査、事例を通じて得た最新の知見を共有し、メンバーのインプットやディスカッションを促す取り組み。
◆組織開発コンサルティング型クラウド 「WILL CANVAS(ウィルキャンバス)」
https://www.willcanvas.jtbcom.co.jp/