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人的資本経営時代における多様性の推進と経営への活かし方

「パラサポ」山脇会長と語る、
多様な人材が活躍するために必要な視点

個人の価値観の多様化や企業を取り巻く環境の変化に伴い、近年、「人的資本経営」というキーワードが注目されています。人的資本経営とは、人材を「管理」の対象と捉えるのではなく「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出し、中長期的な企業価値の向上を目指す経営のあり方です。今回、日本郵船代表取締役副会長を経て現在は公益財団法人日本財団パラスポーツサポートセンター(以下、「パラサポ」)会長である山脇康氏に、JCD取締役・総合企画部長の鈴木良照との対談の機会をいただきました。人的資本経営が求められるようになった背景や、多様な人材が活躍するために必要な考え方について語り合います。

公益財団法人日本財団パラスポーツサポートセンター(パラサポ) 山脇康公益財団法人日本財団パラスポーツサポートセンター(パラサポ)
山脇康
1948年生まれ。1970年、大手海運会社である日本郵船に入社。副会長などを経て、2016年よりアドバイザー。2011年に公益財団法人日本障がい者スポーツ協会(現:日本パラスポーツ協会)理事、2012年に日本パラリンピック委員会副委員長と、パラリンピックの世界へ。その後、2013年国際パラリンピック委員会理事に就任、2014年から日本パラリンピック委員会委員長、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会副会長。2015年から日本財団パラリンピックサポートセンター会長。現在は日本財団パラスポーツサポートセンターに改称。

株式会社 JTB コミュニケーションデザイン(JCD) 鈴木良照株式会社 JTB コミュニケーションデザイン(JCD)
鈴木良照
1967年生まれ。1990年、JTB入社。旅行営業を振り出しに採用、人事、店舗開発、財務経営管理、支店経営を経て、直近はJTBグループ全体の教育や人財育成、キャリア開発に携わる。2020年4月よりJCD取締役兼執行役員総合企画部長。経営企画、人事総務、財務、サステナビリティ推進等を担うコーポレート部門を統括。

1 なぜ今「人的資本経営」が求められるようになったのか

――本日のテーマは「人的資本経営」です。まずは、その背景から掘り下げたいと思います。昨今、日本企業を取り巻く環境にどのような変化があるとお感じになりますか。

鈴木 3年にも及ぶ新型コロナウイルスの感染拡大で、ワークスタイルや価値観が急速に変容しました。JCDの事業ドメインは、人や場所をつなげ、交流や体験を創造することでクライアントのさまざまな課題解決をサポートすることです。コロナ禍で人流が遮断された影響は大きく、当社が展開する事業の一部は縮小したり、オンラインやハイブリッドへの転換対応に迫られたりしました。今は先行きが不透明な「VUCA※時代」であるといわれますが、長期的なデフレや超高齢化社会など従来の問題に加え、気候変動やパンデミック、ウクライナ情勢に起因するグローバルサプライチェーンの混乱、さらには急激な物価高など、まさしく日本全体が不確実性に包まれていると肌で感じています。

※VUCA:Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語で、社会やビジネスにとって先行きが不透明で未来の予測が困難な状況を意味する

山脇氏 今を知るために過去にさかのぼりますと、日本企業は戦後から80年代にかけて均質的な「モノカルチャー」による成功体験を重ねてきました。皆が1つの目標に向かって一丸となって働き、5年後、10年後はもっと良くなっていると未来を信じられたのも高度成長期の特徴でした。「あの会社は誰に相談しても対応にムラがなくレベルが一定している」というように、同質なパフォーマンスを発揮できる人材を育てることが美徳とされていました。この均質的なモノカルチャー組織は意思疎通が円滑で失敗が少ないですし、一定水準の人材をたくさん輩出することにも長けていました。その一方で、出る杭は打つ面もあり、イノベーションは起こりにくい時代であったとも言えます。今の世の中にあっては、日本企業の人材マネジメントにも変化が求められているのではないでしょうか。

鈴木 山脇さんのお考えに共感します。特に当社のような製品を持たず無形のサービスを提供する企業においては、その担い手であり価値を生み出す人財こそが最大の財産です。JTBグループでは、社員を「人財」と表し、社員に投資して人財としての価値を高めることで、企業価値を高めていく方針を打ち立てておりますが、VUCAという環境下においてはなおのこと、予測困難な変化に柔軟に対応できる人財マネジメントが重要だと感じています。

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山脇氏 近年の投資家は財務情報だけではなく、無形資産、すなわち人材の観点から企業を評価するようになりました。欧米を発端に、今回のテーマである人的資本経営ならびに人的資本開示の重要性が急速に高まっています。2018年に国際標準化機構が発表した人的資本に関する情報開示のガイドラインに対応すべく、企業や組織が動き出していますね。

鈴木 山脇さんは日本郵船社で代表取締役副社長や副会長を、国際パラリンピック委員会では理事長も務められています。長きにわたり、民間企業と組織団体それぞれのリーダーとして事業に携わられてきたお立場から、今、企業は何を強化すべきとお考えでしょうか。

山脇氏 私が特に注力しているのは、ダイバーシティ経営です。昨今、ダイバーシティ経営の推進が世界的に叫ばれる背景には、顧客のニーズの多様化や市場のグローバル化による競争激化が挙げられます。「個の違い」を活かしてイノベーションを促進するのがダイバーシティ経営の狙いといえます。日本においても、いわゆるZ世代を中心に価値観も個性も多様化しており、企業における人材戦略は、喫緊の課題といえるでしょう。

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2 人間が持つ潜在能力のフロンティアに挑戦し続けるパラリピアンたち

―― 鈴木さんはダイバーシティ経営を指揮するお立場ですが、JCDでは具体的にどのような施策を実施されていますか?

鈴木 様々な取り組みを実施しています。キャリア採用を積極的に行っているのもその一つです。人財確保についてこれまで新卒採用を中心に行ってきましたが、2021年度からキャリア採用中心にシフトし、22年度はおおよそ20名ほどの外部キャリアの方に入社頂いていますし、次年度以降も継続していく考えです。様々な業種業態での異なるキャリア、専門性、価値観を持った人財が集まり、それぞれの知見が融合することで、良い化学反応を起こしたいと考えています。

山脇氏 なるほど。たしかに中途採用は、ダイバーシティ&インクルージョン※(以下、D&I)の強力な実践機会のひとつになりますね。なぜなら、単にダイバーシティを推進して、多様な人材が「そこに存在する」だけではイノベーションは起きないからです。インクルージョンとは、双方に個性を認め受け入れ合って一体となって働くことを指します。つまり、多様な人材の持ち味を発揮する環境を作ってはじめてダイバーシティ経営は機能するものと考えます。

※ダイバーシティ&インクルージョン:多様性を受け入れ企業の活力とする考え方のこと

鈴木 現在、山脇さんが会長を務めておられるパラサポは、パラアスリートの支援を中心に、一人ひとりの違いを認め、誰もが活躍できるD&I社会の実現をスローガン掲げていらっしゃいますね。そもそも財界出身者である山脇さんが、パラスポーツを主とする活動を行うようになったきっかけは何だったのでしょうか。

山脇氏 2012年のロンドンパラリンピックを見て、人生観が大きく変わりました。そこから第二の人生がスタートしたと言っても過言ではありません。それ以前の私は、恥ずかしながら、パラリンピックとは福祉の一環として「障害のある選手の頑張りを応援する場」などと考えていました。ところが、大会会場を訪れると、驚きの情景が目に飛び込んできたのです。世界最高の舞台の高揚感と緊張感、何より驚いたのは人間の潜在能力です。自身の能力を最大限に発揮するパラリピアンの姿を見て、「何ができないかではなく、何ができるか」であることにも気付かされました。ふと我が身を振り返った時に、今の自分は持っている潜在能力の30%も発揮できていないのではないかと。自らを鼓舞する瞬間でもありました。

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鈴木 ロンドン大会が山脇さんの人生の転機にもなったのですね。

山脇氏 そうなんです。転機になった体験はもう一つあります。私は、会社員時代にも頻繁にロンドンを訪れていました。その時に抱いたイギリス人の印象といえば、シニカルでどこか斜に構えている人が多いというものでした。ところが、ロンドンパラリンピックに熱狂する彼らの姿は、まるで人が違って見えました。選手だけでなく、市民ボランティアの方々も、障害の有無を超えて、互いの活躍を認め合い交歓していました。「共生社会の実現」とはこうも身近に感じられるものなのかと驚きました。以来、パラスポーツの発展を目指す活動にのめり込むようになり、今に至ります。

鈴木 なるほど。日本人である私たちも、東京パラリンピックを経て、多くの発見と感動を得ました。パラスポーツに対する認識が変わったという人も少なくないのではないでしょうか。

山脇氏 パラスポーツは人の新たなマインドセットの契機として大変優れていると思いますね。「インクルーシブな社会を目指す」という目的の部分で、ダイバーシティ経営もパラスポーツも通ずるものがあると考えます。冒頭で述べた「モノカルチャー」のお話に立ち返りますと、私は団塊世代の人間。どこかで人びとが均質な能力、同質な考え方や価値観を持っていることが生産性と成長のもとになると思っていました。そんな私が、障害者とか健常者とかいう区別以前の、多様な人間の可能性そのものに感動し、価値観が大きく変容したのです。同じように多くの人のマインドセットができれば、多様な社会の実現に向けて大きな一歩を踏み出せるのではないでしょうか。

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3 ダイバーシティ&インクルージョン社会の実現に向けて

鈴木 パラサポは、2015年にパラリンピック競技団体の運営基盤強化とパラスポーツの発展、並びにD&I社会の実現に向けて設立されたと伺っております。「SOCIAL CHANGE with SPORTS」をスローガンにD&Iの推進に最前線で取り組んでおられます。

山脇氏 私たちは「スポーツで社会を変えます」と大胆に宣言しているのですが、それだけで人の意識を変えることは極めて難しいことですし一朝一夕には進みません。大切なのは、当事者の話しを聞き、「自分ごと化」し、相手の立場に立つという想像力を働かせることだと思っています。そうすることで相手に対する尊敬の念が生まれます。パラサポは設立当初より、学校向けの体験型授業や子供から大人まで参加できるパラスポーツ体験、パラアスリート講師と障がいやD&Iについて考える機会などを提供してきました。約80名のパラアスリートらが講師を務める教育・研修プログラム『あすチャレ!』は、これまで全国で約3,800回開催、41万人以上の方にご参加いただいております。

鈴木 まさに当社でも、今年の1月にパラサポの皆様に協力いただきまして、地域の住民の方々や子どもたちを対象に、「KIDS学べて遊べる・パラスポーツ体験会」実施しました。視覚障害者トライアスリートとして2016年リオパラリンピックに出場されました円尾敦子さんにご協力をいただくと共に、当社の社員で冬季パラリンピック5大会連続出場している小池岳太も参加しました。あのイベントはまさに、多様性の尊重や相互理解、未来に向かって夢をかなえるためにできることを、障害者・支援者双方の視点で体感していただくものでした。イベントの運営においても、当社の複数部門の多様な社員が連携して実現に至りました。

JCD主催:KIDS学べて遊べる・パラスポーツ体験会のようす
JCD主催:KIDS学べて遊べる・パラスポーツ体験会のようす

山脇氏 JCDさんが実施されたイベントの素晴らしい点は、子どもを対象にしたことですね。子どもは柔軟性がありタブーがありません。『あすチャレ!』の講師で車椅子ユーザーのパラリピアンに対し子どもたちは、「お風呂にどうやって入るの?」「お給料はいくらなの?」なんてストレートな質問をバンバン投げかけてきます。そのような場面では決まって教員の方はギョッとして飛んでくるそうですが、恥ずかしい質問ではありませんよね。疑問があればなんでも聞くべきだと思いますし、何より先入観も固定観念もない子どもの頃からパラスポーツに触れてもらうことに大きな意義があります。そんな子どもたちが大人になって社会のリーダーになっていくのですから。これからも多くの方にパラスポーツを通して、自分ごと化してほしいですね。

鈴木 自分ごと化はとても大切ですね。地域の方々にもパラスポーツを体験し、当事者意識を持っていただくことで、よりよい地域づくりにも貢献できます。そうしたコミュニケーションの場を創造することこそが当社JCDの存在意義ですし、このイベントに携わった社員も仕事のやりがいを感じ、D&Iの重要性の認識につながっていったと実感しています。このような取り組みも、人的資本経営が掲げている目標につながると考えています。

山脇氏 おっしゃる通りです。こうした活動を通して、組織におけるダイバーシティ推進、SDGsへの取り組み、製品・サービスの向上、障害者雇用促進のための考え方など、企業や組織が直面している課題に今までと違う視点を持って取り組むきっかけをパラサポは創出しています。

鈴木 本日、訪問させていただいておりますパラサポのオフィスは、29のパラリンピック競技団体や関係団体が利用する共同オフィスとの事ですが、風通しの良さを感じます。

山脇氏 多様な人材が当たり前に存在するこの場所では、健常者とか障害者といった区別はありません。障害者の方も多く働いており、誰もが働きやすいようユニバーサルデザインを取り入れて設計しました。

公益財団法人日本財団パラスポーツサポートセンター内
公益財団法人日本財団パラスポーツサポートセンター内

――最後のご質問です。人的資本経営の推進について、具体的にどうすればよいのか迷われている企業が多く存在すると思いますが、お二人のお考えをお聞かせください。

山脇氏 人的資本経営を推進する領域で、私が注目しているのが、非連続的なイノベーションを生み出すD&Iの取り組みですが、いちばんの課題は、これまでに慣れ親しみ刷り込まれた人々や企業での認識や意識を、いかにして変革するか(マインドセットの変革)にあると思います。そのためには、風通しが良く、透明性があり、自由に意見ができ、他の人をリスペクトする(自分ごととして捉える)そして、自分自身を見直すことができる組織や環境づくりがベースとなりますので、それぞれの企業においてまずこの環境づくりから取り組む必要があるのではないでしょうか。
 また、これまでにお話ししましたパラサポの提供するさまざまなプログラムには、変化する事業環境への対応や社会課題解決にチャレンジするマインドセット、イノベーションを生み出す多様な視点に対するヒントと気づきが詰まっていますので、ぜひご活用していただければと思います。

鈴木 まずは経営層やマネジメント層など組織のトップ自らが人的資本経営の重要さを認識し、実践することが大切だと思います。 様々なシーンでのメッセージ発信や、経営計画や評価制度に落とし込んで、組織全体の意識の醸成や高揚につなげること。その上で、一人ひとりが自律的に様々なインプットをおこない、個々が発案するアイデアを気軽にアウトプットし、その結果起きた化学反応や融合をしっかりと目利きし育てていく。そういった仕組みや環境作りが必要だと考えます。
また、社員一人ひとりが、自らの成長やキャリアを考え、自分のありたい姿を描き、その実現のために自らのキャリアを開発していく「キャリア自律」を促すことも大事です。そうした意識が、企業として目指す成長のベクトルと合うことで、働きがいやエンゲージメントの向上につながり、個人と企業の双方の成長の好循環が生まれ、企業や組織の価値の向上に繋げることを目指していくことが重要だと考えます。 

最後に、企業や組織で働く人はもちろん、社会のあらゆる人たちが多様性を認め合い、助け合いながら生き生きと暮らせる持続的な社会の実現のために、JCDとしましても、パラサポの皆様とさらなるパートナーシップを構築し、今後もパラスポーツ体験イベントなどの機会創出を行っていきたいと考えています。山脇さん、本日はお忙しいなか、誠にありがとうございました。

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