- 人と組織の活性化
- Report
2019.06.11
「会社のコミュ力」調査 読み解き方セミナー レポート
調査結果を、JCDコンサルタント陣が多角的にディスカッション
2019年3月13日にJTBコミュニケーションデザインが発表した「会社のコミュ力」調査を受け、その調査結果を紐解くセミナーが2019年4月23日に開催されました。当日はファシリテーターとして司会進行をつとめるワーク・モチベーション研究所 所長の菊入みゆきをはじめ、コミュニケーションの専門分野に長けたHRソリューション事業部とプロモーション事業部のコンサルタント陣が参加。日頃、ビジネスの現場においてコミュニケーションに高い関心を持つ各企業の参加者のみなさまと、双方向から具体的な事例を出し合いながら対話を通して進めていく、ワークショップ形式のユニークなセミナーとなりました。
主催者・参加者共に活発な発言があり、調査結果から読み解ける「会社のコミュ力」の実態と、それぞれの企業が抱えるコミュニケーションのさまざまな課題が浮かび上がる大変貴重な機会となった本セミナー。今回の記事では『社員が評価した「会社のコミュ力」調査の読み解き方セミナー ~「会社のコミュ力」は本当に低いのか?~』と題した本セミナープログラムの様子をお伝えしていきます。
<参考>
「会社のコミュ力」調査の概要(2019年・JTBコミュニケーションデザイン)
「会社のコミュ力」調査の詳細レポート
参加コンサルタント
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菊入 みゆき(ファシリテーター/ワーク・モチベーション研究所所長・明星大学特任教授)
野本 明日香(HRソリューション事業部 HRコンサルティング局 チーフコンサルタント)
村上 美奈子(HRソリューション事業部 HRコンサルティング局 コンサルタント)
土濱 正行(HRソリューション事業部 HRコンサルティング局 シニアコンサルタント)
柴田 貴裕(プロモーション事業部 営業推進局 コンサルタント)
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「会社のコミュ力」とは、
「組織として、社内や社外との円滑なコミュニケーションを図る能力」である
菊入
まずは、コミュニケーション能力とはどういうものか。その概念や具体的な言葉の使われ方などについて、解説します。「コミュニケーション」を辞書で調べると、「社会生活を営む人間が互いに意思や感情、思考を伝達し合うこと。言語・文字・身振りなどを媒介として行われる。(Goo辞書より引用)」とあります。「伝達し合うこと」というのがポイントですね。一方通行ではなく、双方向だということです。ではそのとき、「コミュニケーション能力」つまり、「コミュ力」とはどういうことか。「コミュ力」は、「意思や感情、思考を伝達し合う能力」と定義できます。
最近では、
「『コミュ力』が高い人を採用したい!」
「社員の『コミュ力』を高めたい!」
といったように、企業が社員に対して求める能力として使われることが多い言葉です。
では、今回の調査で用いた「会社のコミュ力」とは何か。私たちは「会社のコミュ力」を「組織として、社内や社外との円滑なコミュニケーションを図る能力」と定義しました。そして、会社のコミュ力を構成する3要素として「発信力」「受信力」「社内コミュ力」を置きました。
ご自身の会社の状況と照らし合わせて考えてみると、どうでしょうか?
社員のスキルとして重要視されがちな「コミュ力」は、会社や組織にとっても重要な要素ですね。
今回のセミナーでは、ホワイトボードに3要素の図を貼っています。今日のセミナーでは、コンサルタントや参加者の皆さんからいただいた意見については、このボードに書き込んでいき、「会社のコミュ力」について企業が抱える課題や集合値を浮かび上がらせていきたいと思います。
「会社のコミュ力」総合評価は2.72点。
その実態は?
菊入
調査結果としてまずご紹介したいのは、「会社のコミュ力」の総合評価です。
「会社のコミュ力」調査は、インターネットによる調査で、従業員数100人以上の企業において2,062人をサンプルに行われたものです。その中で「コミュ力」の総合評価をした時に、実に全体の4割の人が「会社のコミュ力は低い」と感じている結果となりました。
また、調査では、評価の理由も聞きました。その具体的な内容も見ながら、コンサルタントのみなさんに感想を聞いてみたいと思います。まずは、村上さんどうですか?
村上
高評価を付けた方の評価の理由として、「以前はコミュニケーション不足だったが、この5年ほどで社内コミュニケーションの活性化やマーケティングへの取り組み改善を実行することで、コミュ力が上がった」というコメントがありました。「コミュ力」をアップさせるためには、なんらかの効果的な取り組みをするべきであり、それにより効果が期待できることがわかります。
中小規模の企業では、経営者の考え方に左右される面も多く、「オーナー企業独特の社風」というコメントもあります。コミュニケーションに関する施策を、組織の中で仕組化することが大事だと感じます。
菊入
では、プロモーションの観点から見て、柴田さんは調査結果をどう読みますか?
柴田
高評価を付けた方の評価の理由として、「(特にロイヤリティの指標である)NPSスコアが高いので」との回答がありました。こうした認識を持つ社員がいる企業が「コミュ力が高い」と評価されている点が興味深いと思います。このコメントからは、単純に売り買いの関係ではなく、ビジネスを通じた価値提供によってお客様との絆づくりまで意識がされているうえ、KPI化されている企業があることが伺えます。
「発信力」が低いのは本当か?
菊入
会社のコミュ力を構成する3要素「発信力」「受信力」「社内コミュ力」の中で、参加者のみなさんはどの要素に関心があるでしょうか?
(参加者の皆さんからご意見をいただく)
ありがとうございます。今日は特に「社内コミュ力」について関心が高い方が多いようですね。「社内コミュ力」について企業それぞれが抱えている課題としては、"上司・部下それぞれの役割""ジェネレーションギャップ""ファシリテーションを含めたコミュニケーション能力を伸ばしていく必要性""会社のビジョンが社員へ浸透していない""社内部門間での意思疎通"といった点が浮かび上がってきました。 また「受信力」については、"社員一人ひとりの受信力は高くても、それが社内で共有されていない"といったご意見もいただきました。
調査結果としては、「会社のコミュ力」の3要素のなかで、組織として社内外の情報を受け止める「受信力」がもっとも高い評価を得て、逆に社外へアピールする「発信力」が最も低い評価となりました。
この結果は実は、個人のコミュニケーションスキルについて調査した結果とも同じで、「受け身のコミュニケーションは得意だけれども、主体的な発信は苦手」ということでした。
(参考:コミュニケーション総合調査<第3報>(2018年・JTBコミュニケーション調べ))
参加者
本当に受信力があるならば、きちんと発信もできるはずなのではないでしょうか?
菊入
そうですね、インプットができていれば、その情報を活かしてアウトプットもできてしかるべきです。ではなぜ「発信力が弱い」と感じる人が多いのでしょうか?柴田さん、いかがでしょうか?
柴田
そうですね、実際には発信はしているのだけれども、その手法が間違っているために結果が出ていないのではないかと考えています。調査では、下記グラフのように、『情報発信として、「現在、力を入れているメディア」と「今後、注力すべき情報発信」には乖離がある。』という結果が出ています。
情報発信に力を入れているメディアとして「自社サイト」が多く挙がっている一方、今後力を入れるべき情報発信としては「SNS」を挙げる声も多いです。ただしこれは、あくまでも社員がそう感じているという結果であって、決して一律にSNSによる情報発信に力を入れたほうがいいという話ではありません。実際に、この調査ではお客様との接点としてのSNSは他のメディアに比べて強いという評価はされていません。
重要なのは、大切にしたいお客様が普段よく目にしているメディアをまず認識しておくこと。そしてそのメディアでしっかりと発信していくことです。SNSによる情報発信は、流行っているからただ使えば良いというわけでは決してありません。テレビCMに注力したほうがいいケースももちろんあるわけです。発信の目的とターゲットを明確にし、それに応じた手法での発信を考えていくことが大切です。そこを間違えると、「発信は頑張っているのに、結果的に発信力は弱い」と評価されている可能性もありますね。
菊入
調査結果のグラフ上でも、水色の棒グラフ「あなたのお勤め先が情報発信に力を入れているメディア」に比べて、緑の棒グラフ「今後、力を入れるべき情報発信」のほうが、分散し、多様化していることがわかります。発信メディアに関して、多くの選択肢を持った上で、自社の顧客には、どのメディアがあっているのかを考える必要があるということですね。
「会社の発信力」。
伝える力において、管理職と一般社員は捉え方が違う。
菊入
自社の魅力伝達度は、従業員1,000人以上の企業でみると、45%の人が伝わっていると回答しました。
さらに営業担当者の伝達能力は、全体で39%が魅力を伝える能力があると回答しています。魅力伝達能力を感じていない理由の問いには、管理職クラスの多くの人が"説明能力不足"を挙げました。
この結果について土濱さんはどう考えますか?実際にコンサルティングを行う会社でもこのような実情はあるのでしょうか?
土濱
経営理念の浸透、営業戦略の共有など、様々な課題に対して、発信力を核とした「コミュ力」強化が問われるケースは多いです。今回の調査でも発信力の重要性がしっかりと浮き彫りになりましたね。
営業とは"発信"を担う重要なメデイアです。コミュニケーションの重要性が高まるなかで、営業スタッフに対して自社の魅力伝達能力を感じない点を改善し、今後育てていくためには、まず正しい教育をしていく環境整備が必要であることも、今回の調査結果からわかりました。
また経営層と一般社員との間で、伝達度については数値の乖離が生じている点にも注目しています。若い社員の「こんなことをお客様に提案していいのか」「自社の商品やサービスに自信をもてていない」という現場の声から、魅力を発信する第一歩が踏み出せていないのではないか。それが魅力伝達能力を低くしている一因ではないかと、考えています。
会社のコミュ力の一番の問題点は、「社内コミュ力」にあり?
菊入
調査で、会社のコミュ力について問題だと思う点について聞いたところ、「社員の要望・意見を取り入れていない」、続いて「会社のビジョンや方針が伝わっていない」「営業や販売担当者への適切な教育がなされていない」という項目が上位に挙がりました。
上位3つの問題点は、すべて「社内コミュ力」であると言えます。こうした声は、従業員の問題意識が端的に表れているといえるでしょう。この結果について、野本さんはどう捉えていますか?
野本
今回の調査結果で、改めて"伝えることの難しさ"を感じました。コミュニケーションの大抵の問題は、人と人との間に水が流れていないことに起因します。ですからこの点については、気づいた時にはすぐ見直していかなければなりません。
企業コンサルティングを行う上で、「組織の風土」の問題は、頻繁に課題として挙がります。非常に漠然としたワードですが、この風土には、社内の暗黙のルールや個人の思考パターンなど、様々な要素が内包されています。多くの企業に言えることですが、この"内向きな風土"はそのままにしておくと、どんどん悪い方向へと向かってしまうのです。ですから気がついた時には積極的に介入して、方向修正をしていかなければなりません。
また、この問題に関しても、会社が目指すビジョンが浸透していることが大切です。ビジョンというベクトルがないと、社員としてもどの方向で意見や要望を出せばいいかわからない。ベクトルがはっきりしていれば、だったら、こうしたい、ここがおかしい、ということも言いやすくなります。建設的なコミュニケーションができると思います。
会社のコミュ力が高いと思う会社の特徴は?
菊入
会社のコミュ力が高いと思う会社の特徴をみてみると、「消費者のニーズを掴んでいる」「社内双方のコミュニケーションに力を入れている」「効果的な施作や制度を導入している」「会社の方針を理解している」を挙げる人が多い結果となりました。
「消費者ニーズを掴んでいる」というのは受信力になりますが、それ以外は「社内コミュ力」についてです。しかもこの設問のポイントは、自社ではなく他の会社を見て評価した点になります。
土濱
今後、5年10年先へ生き残っていく企業になるためには、コミュ力について真摯に受け止め、考えておくスタンスをとっておかなければいけません。今回の調査報告書から読みとれた課題を踏まえ、次のステップでAI時代を見据えたコミュ力とはどのようなものか、継続して考えていくべきです。
菊入
人間らしいコミュニケーションとは何か、という根源的な問いにも応えていく必要がありますね
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1時間半にわたるセミナーでは、コンサルタント陣のみならず、参加者の皆様からも活発な意見が飛び交い充実したセミナーとなりました。
■本件に関するお問い合わせ先
JTBコミュニケーションデザイン 総合企画部 営業企画局 TEL:03-5657-0603