- 訪日インバウンド促進
- Report
2021.10.19
どうなる?どうする?アフターコロナの大阪・関西のインバウンド
〔座談会〕合同会社ユー・エス・ジェイ×ジャパンショッピングツーリズム協会×JCD
地域を元気にするインバウンド、復活に向けたテーマとは
近年、右肩上がりで上昇していた日本のインバウンド市場ですが、新型コロナウイルス感染症の影響により、著しく停滞しています。ワクチン接種の普及もあり、行動制限が緩和される国も増えてきましたが、以前のような市場となるにはまだ時間がかかるとみられています。
今回は、関西のインバウンドマーケティングの中心ともいうべき、合同会社ユー・エス・ジェイ(以下 USJ) インバウンド集客責任者である真田氏と、ショッピングを軸とした訪日観光プロモーションを行うジャパンショッピングツーリズム協会(以下 JSTO)の代表である新津氏に、今後課題となっていくアフターコロナのインバウンド施策について、JTBコミュニケーションデザイン(以下 JCD)で長年インバウンドプロモーションに携わってきた福村を交えて、座談会形式で語っていただきました。
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【座談会参加者】
合同会社ユー・エス・ジェイ
マーケティング本部 セールス&アライアンスマーケティング部
ディレクター 真田 龍一氏 (通称 ドラゴンさん)
一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO)
代表理事・事務局長 新津 研一氏
司会
株式会社JTB コミュニケーションデザイン(JCD)
エリアマネジメント部 プロモーション事業局
プロデューサー 福村 和広
(文中敬称略)
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※社名・肩書きは座談会開催(2021年9月)当時のものです。
長引くコロナ禍で顕在化した課題
JCD 福村
まずは私から、自己紹介も兼ねて、大阪・関西のこれまでのインバウンドにまつわる動きをまとめたのでご紹介させてください。
私は1984年の入社以来、様々な観光プロモーションに携わってきました。2000年前後からは大阪・関西のインバウンドプロモーションに関わるようになり、外国人観光客受入環境整備関係の調査業務や、「観光」を軸にしたまちづくり業務なども経験してきました。
ざっと年表にまとめるとこのような形で、それぞれの時流に合わせた戦略・市場の選定・手法をとってきました。また、続々といろいろな業種のプレイヤーの方が、インバウンドの世界に入ってこられました。なお、2001年のUSJ開業は、大阪が代表的な「観光目的地」として認知される大きなきっかけとなり、修学旅行生なども多く来訪するようになった大きな転機でした。新津さんには、2013年の勉強会でJSTO様の構想をプレゼンされた機会で、初めてお会いしましたよね。
近年ずっと右肩上がりで伸びていた関西国際空港の年間外国人入国者数は、コロナ禍により停滞しています。そうした中、これから大阪・関西のインバウンドはどうなっていくのか、どうしていくべきなのか、お2人からお伺いしたいと思います。
それでは、真田さん・・・私たちの間では親しみを込めて「ドラゴンさん」のお名前で呼ばせていただいていますが、これまでの歩み、USJ様のインバウンド施策、コロナ後の展望などをお聞かせください。
USJ 真田(ドラゴン)
私は、台湾人の両親のもと韓国で生まれ育ち、外資系の別業種の企業で働いたのち、2009年にUSJに入社しました。以降10年以上、USJのインバウンド集客責任者として、年間約200日は世界各国を飛び回り、各地の協力会社と一緒にマーケティングや集客プロモーションなどの施策を手がけてきました。
コロナ禍の今、インバウンド業界に携わる方々の現状としては・・・「不安」この一言に尽きるのではないかと思います。過去にもSARSなどの流行や、政治的不安、東日本大震災など、たくさんのことがありましたが、どれもここまで長引くことはありませんでした。初めての経験であり、これから各々の企業としてどう戦略を立て、どういう施策を打っていけばいいのか、先が見えない状況に悩んでいる方が多いのではないでしょうか。
今後、ワクチンパスポート普及などにより、徐々に市場も復活していくはずですが、まだ具体的な予算投下などには踏み切れない状況だと思います。また、海外の旅行会社も資金状況が悪化し、人員削減、倒産してしまうような会社も出てきています。私たちが今までやってきたプロモーション手法も、ここで一度見直す必要があると考えています。
これからのインバウンドプロモーションのテーマは「共存」
"商店街のお豆腐屋さん"でも情報発信できる仕組みづくりを
USJ 真田(ドラゴン)
また今後、あらためて私たちが海外のお客様へ情報を発信、プロモーションを行っていくにあたっては、いくつかの問題に直面しています。
まず、コロナ禍前後で市場がどのように変化しているのかを把握できていないこと。これまでは、現地の旅行会社やメディアやKOLと協力してプロモーションを行ってきましたが、ある意味、彼らに頼りすぎていた部分もあったと思っています。
そのため、コロナ後の現地のお客様のニーズやインサイトがどう変わったのかという情報の収集から必要と考えています。今後は、間違いなくインバウンド需要を取り込む競争も激しくなるでしょう。世界各国との競争だけでなく、国内での競争も激しくなっていくと思います。
以前は、どの企業も自分たちに関するプロモーションさえしていれば集客に繋げることができていました。ですが、競争が激化するにつれて、個別のプロモーションだけでは集客が難しくなっていくと思います。
そのような中で、私はアフターコロナでのインバウンドプロモーションにおけるテーマは「共存」であると考えています。観光に関わる様々な立場の企業・地域・団体同士で連携しながらお客様が満足できる商品をつくり、一緒にリピーターを獲得していくことが求められているのです。
JCD 福村
USJ様はパークのオープン以来、周辺地域を巻き込んだ、面で展開するプロモーションを行ってきていらっしゃいますよね。アフターコロナには、面だけではなく官民、様々な業種、そしてゲストを巻き込んだプロモーションを行っていく必要があるということですね。
USJ 真田(ドラゴン)
その通りです。ですがその際、懸念されるのが、プロモーションを仕掛ける共通のツールをもっていないということです。たとえば最近は、多くの企業や観光協会、商業施設がそれぞれでアプリを制作していて、乱立状態ともいえると思います。それがお客様の利便性の低下、そしてダウンロード数の分散にも繋がっているのではないでしょうか。連携のためには、できるだけ共通のツールを使いながらプロモーションを仕掛ける必要があると考えています。
実は今、JCDさんと一緒に関西エリアの様々な自治体・企業・団体と連携した官民一体のアプリを企画しています。それらのデータベースをエリアのステークホルダーとも共有することで次回の施策にも生かし、結果としてリピーターを増やすことに繋げられればと思っています。
観光事業で皆が「共存」するということをわかりやすく言うと、例えば"商店街のお豆腐屋さん"でも海外にメッセージを届けられる仕組みを皆で作っていこう、ということなんですね。それが、これからのインバウンドプロモーションにおける私の理想であり、今企画しているこのアプリでそういったことが実現できればと思っています。
JCD 福村
ドラゴンさん、ありがとうございました。新津さんのご意見もお聞かせください。
"旅のチカラ"の実感から生まれた「ショッピングツーリズム」
官民・エリア・業種を超えたオールジャパンで取り組む意味
JSTO 新津
改めまして、一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会の代表で、USPジャパンというコンサルティング会社を経営しております新津です。私は、三越伊勢丹で20年ほど消費者向けのマーケティングを担当していました。
10年前に独立し、ご縁があってツーリズム業界の方々とお会いする機会があったときに、"旅のチカラ"のすごさを感じたんです。そこで、ショッピングと旅を掛け合わせた「ショッピングツーリズム」が日本を元気にするのではないかと確信しました。観光業界や政府の皆さんと議論を繰り返す中で、日本にはなかった免税制度を取り入れること、そして「ショッピングツーリズム」をオールジャパンで取り組むべきなのではないかという結論に至りました。
幸いにも免税制度についてはまたたく間に法改正が進み、いわゆる「爆買い」ブームの火付け役に。オールジャパンでの取り組みは、JSTOの設立に繋がりました。当初は、わずか18社でスタートしたJSTOですが、今では150を超える企業や団体、自治体に加盟いただく団体にまで成長しました。
先ほどのドラゴンさんのお話にもありましたが、私たちも同じことを考えています。JSTOのビジョンの中に「オールジャパンで手を携え、英知を結集しよう」というキャッチフレーズがあるのですが、その「オールジャパン」の1つ目が官民一体であること、2つ目が民・民で業種・業態を超えた連携をするということ、3つ目が北海道から沖縄まで、大都市から地方都市までエリアを超えて結集するということです。このミッションを掲げる一番のヒントとなったのが、JCDさんが事務局を務められていた関西メガセールでした。
JCD 福村
関西メガセールは、関西広域の行政・民間事業者が連携し、関西国際空港、大阪市、京都市、神戸市、堺市、大阪商工会議所などを中心とする関西全域で実施したショッピングイベントです。外国人観光客は、関西メガセールに参加する観光施設や商業施設、飲食施設などに、パスポートを提示するだけで割引などの特典を受けることができます。官民連携で地域を盛り上げた事例で、第2回からJCDも携わるようになり、第3回は、JSTO様のジャパンショッピングフェスティバルとも連携しました。
JSTO 新津
関西メガセールでの官民連携が、今の関西のインバウンドプロモーションに繋がっていますよね。関西広域の行政同士も連携していましたし、ホテルや商業施設、エンターテインメント施設、飲食店も参加していました。そして、大都市だけでなくローカルエリア、あるいは百貨店だけでなく小さな商店街も参加されていたんです。
ドラゴンさんが仰っていたように、アフターコロナの観光再生には、もう一度オールジャパンで連携することが必要ですよね。ツーリズムの世界では、官民連携・異業種連携をし、情報共有しながらマーケットを広げていきます。つまり、地域の方々ともしっかり対話をし、理解を得ながら進めることが重要だと思います。
コロナ禍以前にもオーバーツーリズムの問題は課題になっていました。また、ツーリズムはSDGsのゴールを達成できないのではないか、サスティナブルな経営などの課題解決をせずに進むのではないかという課題もありました。しかし、コロナ禍においてこれらを解決する手法や地域との連携、サスティナブルの重要性を考える時間を得ることができたんですね。
そして、改めてこのタイミングで、私の考える"旅のチカラ"についても振り返ってみたいと思います。1つ目は利益が大きい(稼げる)こと。2つ目は協働で取り組むことで相乗効果が期待できること。3つ目は"多様性"が旅の価値となること。これらが旅の力であり、アフターコロナにおいては改めて重要性が増してくるのではないかと思います。