- 訪日インバウンド促進
- Focus
2024.12.17
世界最大級の旅の祭典「ツーリズムEXPOジャパン2024」から考えるツーリズム産業の未来とJCDの役割とは
一般社団法人日本旅行業協会(JATA)のツーリズムEXPOジャパン推進室長 早坂学氏に聞く
一般社団法人日本旅行業協会(以下、JATA)は、公益社団法人日本観光振興協会、日本政府観光局と共に「ツーリズムEXPOジャパン」を主催しています。JTBコミュニケーションデザイン(以下、JCD)は2024年に開催された「ツーリズムEXPOジャパン」の運営にさまざまな側面から携わりました。今回はJATAのツーリズムEXPOジャパン推進室長の早坂氏をお迎えし、同展示会の開催で目指すツーリズム産業の未来の姿やJCDの役割について、当社コーポレートソリューション部長の島村との対談をお伝えします。
●プロフィール
一般社団法人日本旅行業協会
ツーリズムEXPOジャパン推進室 室長
早坂学氏
大手旅行会社で営業のほか支店全体の管理やアジア方面の航空座席の仕入、法人営業支店支店長、グループ全体のMICE統括担当部長を歴任。2017年からJATAにてツーリズムEXPOジャパンの推進に携わる。
JCD取締役兼執行役員
コーポレートソリューション部長
島村直樹
1989年に株式会社JTBに入社。法人営業や海外のインセンティブ旅行に携わったのち、支店長や事業部長などを歴任。2018年よりJCDに出向し、2022年より現職。
- 世界最大級の旅の祭典「ツーリズムEXPOジャパン」の開催目的やその意義とは
- 蓄積されたノウハウと柔軟な対応力が円滑な運営には不可欠
- ツーリズム産業のDX化による取り組みも積極的に
- 裾野を拡大させることで見えてくるツーリズム産業の発展と未来
1 世界最大級の旅の祭典「ツーリズムEXPOジャパン」の開催目的やその意義とは
―まずは、「ツーリズムEXPOジャパン」について教えてください。また、その目的や意義についてもお聞かせいただけますか。
早坂氏
「ツーリズムEXPOジャパン」は、海外・国内旅行および訪日観光促進、地域振興などを目的に旅の魅力をアピールする世界最大級の旅の祭典です。以前は日本観光振興協会が主催する国内旅行の「旅フェア」とJATAが主催する海外旅行の「旅博」がそれぞれ別に開催されていましたが、2014年に一本化され、ツーリズムに関わる総合イベントとして新しくスタートしました。さらに2017年に日本政府観光局が主催するVISIT JAPAN トラベル&MICE マート(VJTM)が合同開催されることになり現在の形になっております。
構成としては、世界中の国と地域、日本全国の観光地やツーリズム関連企業・団体と旅行会社が一堂に会し、旅行や地域振興に関する商談を行い、一般の方に向けては旅の最新情報を提供する「展示会」。最新の旅行動向について有識者が討議する「国際観光フォーラム」。国内外のサプライヤーと旅行会社が一堂に会する「商談会」と需要喚起や地域振興に貢献した企業・団体・個人の取り組みを表彰する「ジャパン・ツーリズム・アワード」の4つの部門があります。そして日本最大の訪日商談会であるVJTMを合同開催しております。JCDさんには、2016年頃から運営に関わっていただいて、2024年の開催では、公式行事(開会式、WELCOME RECEPTION)とフォーラム(基調パネルディスカッション、観光大臣会合)の運営、顕彰(ジャパン・ツーリズム・アワード)の運営・事務局、展示商談会のシステム運用の面でお力をお借りしました。
2018年の東京開催では約20万人の方に来場頂くなど人気のある展示会とし成長していましたが、コロナ禍で私たちを取り巻く環境がガラリと変わってしまいました。2021年は、開催直前になって東京都に緊急事態宣言が発令され、商談会だけの実施となりました。2022年からの3年間はコロナからの脱却を主題とし、2024年は「旅の完全復活元年」と位置付け、「旅、それは新たな価値との遭遇」をテーマに開催しました。
毎年「ツーリズムEXPOジャパン」を開催している意義ですが、国内外すべての地域における観光による地域振興とツーリズム産業の育成にあると考えています。自治体やツーリズム関連企業に加え学校も対象としておりアカデミーコーナーも設けているのが特徴です。このアカデミーでは大学や専門学校の出展を募り、自治体・企業とのマッチングにより産学官連携の構築や、インターンシップ・就職につなげる機会を提供しています。また将来観光産業を担う学生誘致機会にもしていただいています。2024年は13校が出展するなど、年々規模が拡大しています。
島村
現在、ツーリズム産業では人材不足が課題とされていますが、一方で観光業に興味を持っている学生は多くいます。こうした学生たちとツーリズム産業を繋ぐことで、新たな出会いが生まれ、より一層ツーリズム産業が活性化していくと考えています。日頃学生の方との接点は限られていますが、同時開催のトラベルソリューション展へ出展したJCDブースにも多くの学生の方々が訪れてくれ、観光を中心とした幅広い事業に携わっていることを知ってもらうよい機会になりました。
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2 蓄積されたノウハウと柔軟な対応力が円滑な運営には不可欠
―2024年の「ツーリズムEXPOジャパン」の企画・運営事業者の一社として、JCDを決めた理由を教えてください。
早坂氏
JCDさんは、長年にわたり観光プロモーションに携わっており、旅に関する知見が豊富です。加えて、国際的なシンポジウムや大型展示会の運営実績も多く、そのノウハウが蓄積されています。「ツーリズムEXPOジャパン」のような大型イベントの運営にも慣れていらっしゃるので、思いもよらないトラブルが発生した際にも、臨機応変に様々な提案や対応をしてくださっているという印象があります。今回WELCOME RECEPTIONには、能登半島地震の復興支援の一環として輪島市の御陣乗太鼓の方々に出演いただく予定でしたが、直前の豪雨の影響で来場が叶わなくなってしまいました。急遽代わりに動画で対応しようとJCDさんが現地の方と連絡を取り合いながら素材を集めたり、解説のテロップを入れたりして動画を作成いただきました。
また、当日開催1時間前に登壇予定の方が来場できないということもありましたが、迅速に構成を立て直していただき、スムーズな運営を実現することができました。こうした想定外のトラブルにも柔軟に対応していただけるのは、JCDさんの豊富な経験と高い対応力によるものだと感じています。
島村
開会式が行われる初日は、パネルディスカッションや観光大臣会合、ジャパン・ツーリズム・アワードなどが行われ、登壇者が多くいらっしゃいます。加えて、観光大臣会合などは直前まで参加者が確定していない事も少なくありません。今回も急遽来場できなくなった方がいらっしゃったり、要警護対象の現役の大臣の方が3日前に来場されることがわかったりと、臨機応変な対応が特に求められる場面が多々ありました。
また、世界各国の観光大臣をはじめ、国内外問わず多様な有識者の方々にお越しいただいており、登壇直前まで、客席でご挨拶をされたり、控室で談話されていたりと、進行が押すシーンもありましたが、運営チーム・接遇チームとも連携し、無事開催できたと思います。
早坂氏
登壇者が多く、慣れていないとその状況に右往左往してしまうこともあるのですが、JCDさんは落ち着いて対処されていましたよね。さすがだなと改めて感じました。
3 ツーリズム産業のDX化による取り組みも積極的に
―商談会にはJCDが提供するマッチングシステムが活用されています。参加された方からはどのような反響がありましたか?
早坂氏
商談会は事前アポイント制で、マッチングシステムを使用して商談スケジュールを成立させています。出展者であるセラー(売り手)と、商談を通して情報を取得したいバイヤー(買い手)とを繋ぐシステムで、2017年からJCDさんが携わってくださっています。毎年使用させていただいていますが、改良を重ねられているので展示商談会に参加された方のアンケート評価がとても高いのです。JCDさんは観光プロモーションに携わっている方が多くバイヤー・セラー双方の気持ちを理解しているので、「期待通りだった」「期待以上だった」という評価が9割近くにもなっているのだと思います。
島村
市場も年々変化していますし、観光業界を取り巻く状況も変わりつつあります。ですから、毎年システムも改良していかなければユーザビリティとのギャップが生まれてしまい、結局使われないシステムになりかねません。毎回出てきた課題を改善し、少しずつ調整していくことは欠かさず行っています。特にツーリズム産業はDX化に課題があると言われており、システムに馴染みのない方も多いと感じています。ですので、一気にデジタルを導入してしまうと使ってもらえないこともあります。ご担当者もお一人で複数の業務を兼務されていることも多く、高度なシステムよりも、受け入れやすくて馴染みやすいものが効果的です。そのため改良を繰り返しより使いやすいものにしています。
早坂氏
今回はこのマッチングシステムを在日の外国人メディアの方に対しても活用しています。今まで手動で行っていたマッチングをシステムに組み込むことで、とてもスムーズになりました。毎年多くの方にご利用いただいているシステムなので、来年はさらに商談枠を広げることも考えています。
島村
今回JCDのブースでは、新たな実証実験を行いました。具体的には、来場者が二次元コード付きの入場証を携帯し、出展者は展示ブースで専用のシステムを使ってその二次元コードを読み取ることで、来場者の名刺情報や要望情報を簡単に収集できると言う仕組みです。ツーリズム産業のDX化の課題は早坂さんからも伺っていましたが、今後デジタルソリューションを活用していくことは出展者にとってもメリットになると思っていましたので、まずはJCDのブースを利用して、検証してみることにしました。
早坂氏
システムで顧客情報を管理するといったことをしていない方も多いので、そのような方々にとって、どのようなシステムであれば価値を出すことができるのかという検証を含めて積極的にしていくべきですよね。
島村
今後はインバウンドの方々がどんな経路を辿って、「ツーリズムEXPOジャパン」に入ってきたのかなどといった来訪計測の仕組みづくりにも取り組みたいと思っています。それを展示会の中でアピールすることで、多くのツーリズムに関わる方々に使っていただけるプラットフォームのような存在になっていきたいです。
4 裾野を拡大させることで見えてくるツーリズム産業の発展と未来
―次回の「ツーリズムEXPOジャパン」開催に向けての想いをお聞かせください。
早坂氏
2025年の「ツーリズムEXPOジャパン」は中部・北陸エリアを代表する愛知県での開催を予定しています。中でも石川県は能登半島地震からの復興途中にあるため、このエリア全体が活気づくようなイベントを目指しています。中部・北陸には岐阜県の飛騨高山や白川郷など、海外の方にもよく知られている観光地もありますが、他の地域はゴールデンルートから外れているため素通りされてしまうという危機感を抱いている方が多いんですね。中部・北陸の魅力を世界に知ってもらうためには海外からの出展者も多く呼び込むとともに、新たな目玉となるような観光コースの開発も必要だと考えています。同時期に大阪で開催される大型国際イベントとの相乗効果も期待しており、そちらを訪れた方が「ツーリズムEXPOジャパン」にも足を運んでもらい、多くの交流が生まれたらと思っています。
―最後に、この記事をご覧の皆様へのメッセージをお願いします。
早坂氏
「ツーリズムEXPOジャパン」は、BtoBとBtoCを兼ね備えているイベントとしては世界最大規模と言われていますが、今後はさらなるグローバル化を図らなければこれからの世界には通用しないと感じています。例えば、ベルリンで開催される「ITB Berlin」やロンドンの「ワールド・トラベル・マーケット」は、世界的にも有名なツーリズム産業のトレードショーです。将来的には、「ツーリズムEXPOジャパン」をこれらに匹敵する世界的なトレードショーにしていきたいという想いがあります。
島村
日本のイベントで体験する細やかなおもてなしや柔軟な対応力は、海外の方からも高く評価されています。これらの強みを活かした「ツーリズムEXPOジャパン」が、アジア発の世界規模なトレードショーとして確率される日も近いと感じています。
私たちJCDは、さまざまな領域における専門性と、各分野での多彩なソリューションを活用し、ツーリズム産業全体の課題解決のため多角的・多面的に貢献できる、他社にない強みを持っています。今後はこの強みをさらに発展させ、グローバルに展開していくことも視野に入れています。ツーリズム産業の裾野を拡大しさらなる発展を促す「ツーリズムEXPOジャパン」の運営を通じて、これからも主催者の皆様とともにJCDもツーリズム産業の発展に寄与していきたいと考えています。