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2023.10.23
パーパス経営で生産性を3倍に!名和先生の特別講義
新SDGsで企業の未来を切り拓く
JCDでは、総務・人事領域を中心にさまざまな動画コンテンツなどを提供するオンラインプラットフォーム「JCD Event Platform」(JEP)を運営しています。先般、パーパス、志に根づく経営を提唱する名和高司先生(京都先端科学大学教授・一橋大学ビジネススクール客員教授)をお招きして、「生産性を3倍にアップさせるパーパス経営の作り方」と題するセミナーを開催しました。
第1部:名和高司教授 特別講演
第2部:【パーパス経営トークセッション】社員エンゲージメント向上の事例から紐解くカギとは?
本セミナーの様子を一部公開いたします。(期間限定でアーカイブ配信中)
名和 高司 氏
東京大学法学部卒。ハーバード・ビジネス・スクール修士。
三菱商事に約10年勤務後、マッキンゼーのディレクターとして約20年間コンサルティングに従事。自動車・製造業分野におけるアジア地域ヘッド、デジタル分野における日本支社ヘッドを歴任。2010年、一橋大学ビジネス・スクール特任教授に就任、2016年より同校客員教授になる。2021年より京都先端科学大学教授に就任し、現在、一橋大学ビジネススクール客員教授も同時に務めている。
菊入 みゆき(第2部より)
ワーク・モチベーション研究所 所長 シニアコンサルタント
1993年のJTBモチベーション設立当時よりワーク・モチベ―ションの研究、調査、商品企画に注力。特に、内発的動機づけの促進、キャリアとモチベーション、組織におけるモチベーションの伝播などについては、研究、およびコンサルティングの実績を積む。筑波大学大学院 人間総合科学研究科 博士後期課程修了。博士(生涯発達科学)。2015年4月より、明星大学特任教授。
※社名・肩書きは2023年10月時点のものです。
1 「SDGs」の次に来る「新SDGs」とは
リーマンショックで世界中が影響を受けた2008年、マーケティングコンサルタントのサイモン・シネックが「ゴールデン・サークル理論」を提唱し、経営においてはWHATやHOWだけでなく「そもそもなぜそのビジネスを行うのか」というWHYが重要であることを指摘しました。このWHYが「パーパス」です。
今、世界が取り組んでいるSDGsは、2030年までに達成することを目標にしていまが、私が提唱しているのは、その先の2050年に向けたキーワードとしての「新SDGs」です。
SDGsには目標とする17枚のカードがありますが、永遠の課題としてのS(Sustainability)を18枚目のカードとするなら、「志(パーパス)」とは、そのSとD(Digital:デジタルからトランスフォーメーションへ)、G(Globals:ボーダーレスからボーダーフルへ)という3つが重なり合う共通基盤だと考えられます。
資本主義を顧客市場、人財市場、金融市場という3つの市場で捉えるとき、今後、顧客シフトではライフシフト、人財市場ではワークシフト、金融市場ではマネーシフトという変化が起こり、資本主義(キャピタリズム)の先は志本主義(パーパシズム)が来ると考えています。
まず、「サスティナビリティ」をめぐっていくつかの言葉を整理しましょう。
ひとつは「ESG」です。企業が長期的に成長するためには環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)という3つの観点が必要だとする考え方ですが、これに取り組んでも、リスクを抑えることはできますが成長ができるわけではありません。
次に「SDGs」ですが、これは社会課題を解決することによって事業機会を生み出すため、トップライン(売上)を向上させることができます。しかし普通にやっているだけでは利益には貢献しないでしょう。
そして3つ目がマイケル・ポーターが提唱した「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」です。CSRの取り組みは社会価値を向上させますが、経済価値(儲け)にはつながらないので、この双方の向上を目指すCSV(本業のど真ん中に儲かる仕組みを作りながら社会に貢献すること)によって、はじめてボトムライン(利益)が向上するという考え方です。つまり真に持続可能を目指すなら「良いことをして儲かる」という発想に転換する必要があるということです。
次に「デジタル」です。
シリコンバレーなどで言われている「トランスフォーメーション思考」というものがあります。パーパスというと「創業の思い」のようなノスタルジックなものと思いがちですが、過去ではなく2050年という未来に向け、北極星のような手が届かない遠いところに「MTP(Massive Transformative Purpose:巨大で革命的なパーパス)」を設定し、そこに到達するために、まずデジタルを使い倒す「自社変革」、次に顧客との関係を見直す「エコシステム変革」、そしてサービスそのものを見直す「事業モデル変革」という3つのウェーブによって自社を変革していくというものです。
ただ、そのような変革は簡単ではありません。ベンチャーなら失うものはありませんが、すでに顧客がいて利益も出ている企業において、現業を変えることにはリスクがあるからです。やらなければならないことはわかっているのになかなか取り組めない。変革するためにはX(Transformation)マネジメントが必要になるわけです。
では、この事を踏まえて変革に成功した事例を紹介しましょう。
2 味の素グループ事例:北極星としてのASV
以下は、私が8年間、社外取締役を務めていた味の素グループの事例です。
同社は2018年にパーパス経営に大きく舵を切り、「Eat Well, Live Well」(食と健康の課題解決)というパーパスを「ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)」として設定しました。そして2030年までに地球環境の負荷を半減させると同時に、地球10億人の健康寿命を延ばし、企業価値を上げることを宣言しました。
このASVを3年間かけてグローバルな消費者と従業員に浸透させ、共感を広げたことで、エンゲージメントが高まり、顧客に対するブランドを向上させ、結果的に株価を上げるという好サイクルを実現しました。
そのために同社が2016年から始めたのが「アワード」という制度です。
第1回のASVアワードで入賞したのは、東海エリア野菜摂取量を拡大させる「愛・野菜プロジェクト ラブベジ®」というプロジェクトです。これは、行政・生産者・流通・外食店・大学・マスコミ・NPO、そして味の素グループが連携して、東海エリアの生活者の健康づくりに貢献するというものでした。
このアワードの取り組みはその後も継続しており、最近では減塩をテーマとする「Smart Salt®(スマ塩®)」が入賞しています。
まさにおいしさを損なわずに健康を実現するというASVにかなった制度だと思います。
アワードに応募するのは従業員が非常に盛り上がったことでエンゲージメントが向上し、さらに2年間でROICが2倍、ROEが3.5倍になりました。まさにパーパス経営によって企業価値を向上させた好例だと思います。
この後、セミナーでは、名和先生ご自身がパーパス策定に関与した企業の事例を紹介しながら、パーパスの3つの条件などについて解説しています。
3 トークセッション:「企業のパーパスお悩みかるた」に名和先生が快答!
続く第2部では、ワークモチベーション研究所の菊入みゆきと名和先生とのトークセッションを行いました。
パーパスを共有することの課題や重要性、変革への気づきの連鎖が組織の向上につながるなど多岐に渡る議論が交わされました。
モチベーションの有用性、女性の活躍支援の解決法といったさまざまな企業視点での問題提起が紹介され、名和先生からそれぞれ真摯なアドバイスをいただいています。
名和先生のセミナーはhttps://jcd-ep.jp/search/detail/1324からご視聴ください。
会員登録後、無料でご視聴いただけます。